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「あー疲れた!」
心の叫びを口にしつつ、直樹はベッドの上に体を委ねた。
「ふふふ。色々お疲れさまでした」
森であった出来事をざっくり訊いた香織が、隣で横になりながら声をかけた。
夕食後、今日が皿洗い当番だった直樹と歩斗が食事の後片付けをしてる間に香織と優衣が一緒にお風呂に入り、それと入れ替わりに直樹と歩斗も汗を流した。
男同士、スライムを倒した時の興奮を語り合ったりしていたが、歩斗が魔法の杖をこっそり自分の部屋に持って行ってしまったことを知る。
そして直樹から「あれは危ないから、パパが預かっておくよ」と言われた歩斗が、からあげを奪われた件も合わさってふてくされたりもしたが、なんだかんだで奇妙で貴重な体験を共に味わった戦友として「明日は休日だし、じっくり探索してみよう!」「おう!」と絆を深めていた。
そんなこんなで、歩斗と優衣は子ども部屋で、直樹と香織は夫婦の寝室で眠りにつこうとしていた。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ~」
直樹はベッドの横に立てかけた魔法の杖が確かにそこにあることを確認しつつ、ヘッドボードのライトを消した。
もしかしたら、すでに夢の中に居るんじゃ無いか……なんてことを脳裏によぎらせつつ瞼を閉じると、すぐに眠りに落ちていく。
疲れすぎていたからか、すでに夢の中に居たからなのかは定かでは無いが、結局直樹はその夜に夢を見ることは無かった。
サーッ。
カーテンを開ける音と共に、眩しい光と微かな温度が瞼に当たるのを感じながら直樹は目を覚ました。
「ふぁ~……あっ、おはよう」
あくびをしながら瞼を開けると、カーテンを開け終えた香織と目が合った。
「おはよう~、良い天気だよ~」
低血圧の香織は寝ぼけ顔でベッドに座り込み、何度もあくびをしている。
ダブルベッドの右寄りが直樹、左寄りが香織というのが定位置で、ベッドの左側の壁にある窓からは、いつもと変わらぬ風景が顔を覗かせている。
本当に、昨日のあの出来事は全部夢だったんじゃないかと直樹は思った。
ただ、この寝室は1階で言うと玄関側で、問題のリビング側は子ども部屋の方。
つまり、この窓からいつも通りの景色が見えたとしても、必ずしも昨日の出来事を否定する材料になるとは言えなかったが、あれが現実なのか夢なのか、一体どっちのが良いんだろう……なんてことを考えながら、直樹は寝返りを打って体を反対側に向けた。
すると、目の前には紛れも無く、寝る前に見た状態と全く同じように壁に立てかけられた魔法の杖があった。
「フッ……」
直樹は口元を緩めながら、数え切れないほどある謎の中で、まずはどこから解明してやろうか、と不思議な森に思いを馳せていた。
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