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いや、普通に考えたら、あれは単なる夢物語で元の風景に戻っている方が安心する場面なのかも知れない。
しかし、ミステリー小説を少しでも読み始めてしまったら、絶対最後まで読み切って謎を解き明かさないと気が済まない性分の直樹にとっては、謎が謎のまま消えて行かないでくれたことに対する安堵感であった。
ただ、この景色をひとりで見ていることが寂しくないといったら嘘になるだろう。
歩斗と優衣がもう少し小さかった頃は、休日で朝から父親が家に居るとなるともうそれだけで大はしゃぎ。「どっか連れてって!」だの「何かして遊ぼ!」だのと2人で父親を奪い合って両腕を引っ張られ、勘弁してくれと直樹が呆れるほどだった。
しかし、それぞれ小5と小4になった今となっては、当然のように父親よりも友達優先。
おかげで休日は文字通りゆっくり休めるようになったものの、引く手あまただったあの頃の情景を思い出さずには居られなかった。
「……にゃーん」
そんな気持ちを知ってか知らずか、いつの間にか直樹の足下にやって来ていたささみが、窓の外に向かって鳴いた。
「おお、ささみ! よし行くか! 冒険の旅へ!」
直樹はリビングに自分とささみしか居ないのを良いことに、恥ずかしげも無く魔法の杖を振りかざしながら高らかに声を上げた。
「……おっと、ちょっと待っててくれ」
その言葉をささみに、魔法の杖をソファに残し、直樹は駆け足で2階の寝室に向かった。
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