第6話 魔法使いと猫の冒険

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 クローゼットの奥から、子供たちの運動会に参加する際に揃えたポロシャツとハーフパンツを引っ張り出し、急いで着替えて下に降り、玄関のシューズボックスからスニーカーを取り出してリビングに戻った。  この時期、半袖ポロシャツにハーフパンツの運動会ルックはかなり肌寒いものがあったが、それもリビングの中まで。   「よし、行くぞ!」 「にゃーん!」  1人と1匹で仲良く窓の外に飛び出すと、温かい空気が1人と1匹を包み込んだ。   「やっぱ、これでバッチリだったな」  木漏れ日を浴びながら満足げに頷く直樹。 「にゃ~ん」  その足下で、春のような陽気に包まれたささみが気持ちよさそうに伸びをした。  昨日は夜だったこともあって恐ろしげな雰囲気を醸しだしていた森の景色が一変し、緑鮮やかな木々たちは穏やかな温もりを漂わせていた。  ただ、植物に疎い直樹の目にも、木の質感や葉っぱの形など細かな所に違和感を感じずにはいられない。  日本の木々とも、テレビや写真で見る外国の木々とも違うのだが、かといって明らかにファンタジーの世界に迷い込んでしまったというほど劇的に違うわけでも無い、絶妙な"ちょいズレ感"だった。  それは空気に関しても同様で、その場に立ってるだけで感じる肌触りの違い、鼻と口で吸い込んだ時の微かなクセなどあるにはあるのだが、かといって息苦しいわけでも、水の中にいるような重さを感じるわけでもなく、明らかに変な匂いがするわけでも無い。  あまりにも違和感が大きければ恐怖が上回ってしまうところだが、その絶妙なズレ感こそがちょうど良い塩梅で直樹の好奇心をくすぐった。  「そうそう。昨日ちゃんと見れなかったから、まずはそこを調べてみよう」  直樹は足下のささみに声を掛けながら、右手に進んで我が家のサイド部分の様子を確かめてみる。  すると、途中までリビングの窓を囲んでいるのと同じクリーム色で塗られた外壁が、途中から茶色い木の壁に変わっているのに気付いた。 「うーん……これはどういうこと? って、逆側は……」  玄関側から回り込もうとした直樹の目に、さらなる意外な光景が飛び込んできた。 「こ、これは……」
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