第6話 魔法使いと猫の冒険

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 本来、玄関があるべき場所、つまりリビングの窓の真裏にあたる場所も全面木の板で覆われており、その中央部分には木製の扉がはめ込まれていた。  もちろん、本来の玄関扉は木製ではなくスチール製だが、そもそも姿形がまるで違う。  それでも、直樹は一応自分の家であるはずの扉の取っ手に手を掛けて、恐る恐る開けてみようとしたが、ガタガタと音を立てるだけで全く開きそうな気配はなかった。 「鍵か……」  と、呟いてみたものの、取っ手の上に見える仰々しい鍵穴は、現代世界では至ってノーマルな、涼坂邸の鍵が使えそうな気配が全く感じられない。 「にゃ、にゃ、にゃ……」  直樹と一緒に付いてきていたささみが両前肢で木の扉をカリカリしたが、やはりビクともしない。  首を捻りながらとりあえずさらに歩みを進め、リビング側に戻ってきた。  結果、直樹はマイホームを右回りにグルッと一周したというわけだが、家の半分が木の壁で覆われていることが判明。  ちなみに実際の涼坂邸の外壁は白い漆喰で、木の板など一枚も張られていない。  もう一度、直樹は反対側に回ってみた。  こちら側から見た家は、『住宅街の一軒家』というよりは『山小屋』と言った方が、遙かにしっくりくるような面持ちである。 「そういや、こっち側も見渡す限り森って感じだな」  直樹は周囲を見渡しながら呟いた。  本来なら、玄関から出ると車一台通れるほどの小さな道路があって、その向かいに近所の家々が軒を連ねているはずなのだが、いまそこにあるのは木々の群れ。  しかも、リビング側よりも木が密集して生えているせいか木漏れ日が少なく、見通しも悪かった。 「なんかこっちのが怖いな……向こうに戻ろう」 「にゃーん」  直樹とささみは落ち葉混じりの土を踏みしめながらリビング側に戻った。  家の様子を確認すれば少しは謎が解明すると思っていた直樹だったが、それどころかさらに謎が増殖した感に満ち満ちている。  と言っても、それは大変だ……というよりは、むしろ楽しさが増えて嬉しいとばかりに直樹の目は輝きを増していた。  月曜から金曜まで働きづめで心身共に疲れ切ってはいるのだが、休日にただ家でボケッと休んでいればそれが回復するのか、と言えば必ずしもそうでは無かった。  直樹の仕事内容的に、心身の疲れの内、"心"の比率の方がかなり大きいからだろうか。  楽しむことこそが最大の心の癒やしであるのを裏付けるかのように、謎だらけのこの状況下に置かれた直樹の顔に疲労の色は見えなかった。
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