第7話 陽気な商人と世界の名前

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「ゲフッ」  と、ゲップしながら、謎の男は空になった小瓶を布袋の中に戻す。  黙ってそれを見守っていた直樹は、ゴクリとツバを飲み込んだ。  一体、あの緑の液体は何だったのか……?  自分で飲んだってことは毒では無さそうだけど……。  ゲームの回復アイテムでお馴染みの<ポーション>的なものか……と、直樹の頭の中では疑問がグルグルと回り続けていた。  生暖かい風が直樹と男の間を吹き抜け、地面の落ち葉がカサカサと揺れる。 「──これでどうかな? 僕の言葉わかる?」  謎の男の口から、綺麗な日本語がするりと出た。   「わかるわかる! えっ……どういうこと!?」 「にゃーん、にゃーん!」  ついさっきまで記号しか喋っていなかったのに、と直樹たちは驚きを露わにした。  ただ、急に日本語をしゃべり出したのと、あの緑色の液体が関係していることは明白。 「ふふふ。まあ、ちゃんと説明してあげるから。とりあえず、会話できるようになったことを喜ぼうじゃないのさ。では改めて自己紹介。僕の名前はポブロト。職業は見ての通り商人だよ!」  そう言って、ポブロトと言う名の商人はクルッとその場で一回転した。  ぽっちゃり体型だが、意外と身軽なようだ。 「あっ、俺は……いや僕の名は涼坂直樹。職業はごくごく普通の会社員。えっと……よろしくポブロトさん」  会話が通じるようになったとは言え、まだこの状況を全然把握できずにフワフワした頭のまま、とりあえずの礼儀として直樹は自己紹介を返した。 「ははっ、ナオキさん。仕事の場じゃないから、くだけた言葉で大丈夫よ!」 「あっ、そ、それはどうも……」  直樹は、ポブロトの見た目と綺麗な日本語のギャップにまだ違和感を拭いきれずにいたが、昨日の夜から押し寄せ続けている"謎の波"を解くチャンスがついにやって来たぞ、という高揚感によってほど良く中和され、徐々に冷静さを取り戻していった。   「ちなみに、この子はウチで飼ってる猫のささみ」 「にゃーん!」  直樹の紹介にあずかったささみは元気よく鳴いてみせた。 「おお! か、かわいい!!」  そう言いながら、ポブロトがトコトコと自分の方へ歩み寄ってきたので直樹は一瞬ドキッとしたが、しゃがんでささみの体を撫でるポブロトのデレデレ顔を見て安心した。  猫好きに悪い人は居ないからな……って、コッチにも猫はいるのだろうか?
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