第1話 からあげの匂いとスライム

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 元気な足音と共に、2人の子供の声が階段を降りてきた。  廊下に立っている香織と直樹……特に直樹の存在に気付くなり、2人揃ってハッとした表情を浮かべた。   「あっパパだ!」  小学4年生の娘・優衣(ゆい)がまるでレアなモンスターでも見つけたかの如く、直樹に向かって指差した。 「あっホントだ! 今日早くね? リストラされた?」 「えっ、リストラって会社やめさせられちゃったってこと? パパかわいそ~」  小学5年生の兄・歩斗(あゆと)による勝手な憶測をそのまま受け入れた優衣は、タッタッタと廊下に足音を響かせながら直樹に駆け寄り、トンッとつま先でジャンプして抱きついた。 「うわっ、いきなりどした!? っていうか、アユ勝手なこと言うなよ! パパがリストラされるわけないだろ!?」  直樹は右腕で娘の体を支えつつ、息子に向かってビシッと言ってやった。  もっとも、「ははっ、バレたか」ぐらいな冗談を返す余裕が無いというのも事実。  このマイホームを買った直後という絶妙に悪いタイミングで、人事異動により慣れ親しんだ部署を離れていた。  直樹が勤めている会社はIT系の中でもお堅い部類だったのだが、今年になって突然、昨今の時流に乗り〈スマホゲーム事業〉を新規に立ち上げた。  そして、直樹の異動先がまさにそのスマホゲーム事業部。  部長以外ほぼ若手で構成されたその部署で、唯一の中堅──いやもうベテランのステージに片足を乗せつつあった直樹は、自動的にリーダー的責務を負うこととなった。  確かに、直樹はゲーム自体とても大好きで、それこそ一番の趣味と言っても良いぐらいだったのだが、趣味だからこそ仕事にはしたくないという月並みな心理状態に陥り、元の地味な部署への未練を吹っ切れずにいた。  まあ、月並みなソレ以外にも、学生時代から使いこなしている〈スマホ世代〉たる若手に対する引け目なんかもありつつ──
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