61人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
「そう言えば、この杖でスライムを攻撃した時に数字の形をした煙が見えた気がしたんだけど、あれってもしかして……」
「ああ、HPですそれ! 何というか、その人や魔物の体力の数字というか……」
「おお、やっぱり! HPは分かるよ、ゲームとかじゃお決まりのシステムだし」
そう言いながら、直樹の脳裏にある考えがフッと浮かび上がってきた。
ポブロトによると、自分達よりも前に日本人がこの世界に転移したことがあったらしいけど、もしかしてその人がここでスライムや魔法、宝箱やHPのことを知り、日本(もしくはどこかの国)に戻ってゲーム制作に活かしたんじゃないか……。
まあ、その真偽の程はともかく、少なくとも今の自分にとってこの世界での経験を仕事にフィードバックできることは間違い無い。
もっとも、そんな皮算用を抜きにしても冒険する気は満々なのだが──と、黙って考えていたその時、ふいに右肩をコツンッと何かで叩かれた。
「……えっ?」
いつの間に取り出したのか、ポブロトの右手に小さなこん棒のようなものが握られており、どうやらそれで小突かれたらしかった。
「フフフ……」
ポブロトは不敵に笑いながら、またもや直樹の右肩をコツンと叩いた。
すると、ちょうど叩いた場所から『1』の形をした煙が飛び出してすぐ消えた。
「この数字は……!?」
戸惑う直樹。
しかし、そんなのお構いなしとばかりに、ポブロトは一定間隔で直樹の右肩を小突き続けた。
コツンッ……1。
コツンッ……1。
「えっ、ちょ……えっ??」
ただの陽気な商人と思っていたポブロトによる突然の奇行に驚き、棒立ち状態の直樹。
それでも、ポブロトの動きは止まる気配を見せない。
コツンッ……1の形をした白い煙。
コツンッ……1の形をした白い煙。
コツンッ……1の形をした赤い煙……!?
「……えええ!? あ、赤に変わったけど? 煙の色!?」
直樹は迷子の子犬のような切ない目でポブロトを見た。
「あっ、出ましたね、赤煙。それが出始めると、その人は瀕死状態ってことなんです」
そう言って、ポブロトの口元がニヤリと動いた。
「ひぃ……」
直樹の脳裏には、妻や子ども達との楽しい日々が走馬灯のように駆け巡っていた。
最初のコメントを投稿しよう!