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「ぎゅー!」
「……いててて! 何すんのユイ!?」
抱きついたままの娘の小さい手に思いきり両頬をつねられた直樹。
ふいの攻撃、しかも思いのほか高めの攻撃力のせいで思わず涙ぐみそうになった。
「へへへ、なんかパパ、ボケッとしてるから!」
そう言って、優衣は父親にはにかんで見せる。
直樹は、その理不尽な理由といい、細腕なのに妙な力強さを発揮するところといい、どんどん母親の香織に似てきてるな、と思った。
「ねー、お腹すいたんだけどー。ねーねー」
今度は息子の歩斗が、なぜか直樹の脇腹へグーにした右手をグリグリしながら訴えかけてきた。
いや、食事が欲しいならパパじゃなくてママに訴えたほうが……って、そんな言葉を口にした日には、妻から本気のグリグリを食らい兼ねないことを重々承知している直樹は結局笑いながら、
「ははっ。そうだなぁ。パパもお腹すいたなぁ、ははは」
と、お茶を濁す。
「はいはい。腹ぺこが3人も現れたら退治しないわけにはいかないわね。すぐ作ってあげるから、しばしお待ちあれ」
香織は両手でエプロンの裾を広げ、3人に向かってニコッと笑った。
「晩飯なに?」
歩斗は興味津々な眼差しを母親に向ける。
「そうねえ、みんなすぐ食べたそうな顔してるから……鶏のからあげにしよっかな?」
「よっしゃ!」
両手でガッツポーズの歩斗。
「やったー!」
優衣は抱きついていた直樹の体から離れ、ピョンと床に降りながら両手を大きく広げた。
「おいおい、ユイ。パパとからあげどっちが好きなんだ?」
「えっ? もちろんからあげだけど?」
間髪入れずに答える優衣を見て、香織と歩斗はプッと吹きだした。
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