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第12話 ふんわりボブとフィナンシェ
「ただいま~」
香織は鍵で玄関のドアを開け、一人で留守番してるはずの夫に向かって声をかけた。
しかし、返事は無い。
いつもなら、声を掛けたらお風呂かトイレにでも入ってない限り「おかえり~」と言いながら顔を見せてくれるはずなのに。
「ってことは、お風呂かトイレ……かな?」
そう呟きながら、ブーツを脱いで上がった。
ショルダーバッグを肩からおろし、コートを脱ぎながら廊下を進むが、途中にあるトイレにも洗面所にも誰かが居る気配は無い。
「あっ、わかった。居眠りでもしてるんだ」
まだ昼過ぎだが、直樹が休日に一人で出かけることはあまり無いので、考えられるとしたらもうそれしかない、という結論に達した香織がリビングに足を踏み入れたその時。
トゥットゥルルットゥッティ~ン♪
着信を告げる音が手元から聞こえてきた。
「はいはいはい。今出ますよ~」
バッグの中を漁る香織だが、いくら探しても携帯は見つからなかった。
着信音は鳴り続けている。
「あっ、そっか。ポケット、ポケット」
バッグをダイニングテーブルの上に置き、腕に掛けていたコートをまさぐった。
「ほら、あった! はい、もしもーし」
香織は、急いで応答ボタンをスライドする。
「あっ、どうもお世話になってます。──あー、あの人つい最近電話番号変えたばかりだからかもです。きっと。──そうですそうです。すみませんお手数かけちゃって。──はい、あっはーい、分かりました。伝えておきまーす。はい。失礼します」
電話を終えると、香織はすぐに携帯のアドレス帳から直樹の名前を探して通話ボタンをタップした。
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