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「──あっ、あなた? ねえ、今どこに……」
『おお、香織! 助かった!』
「助かった? どういうこと?? って、それより、会社の人から電話あったよ。明日、日曜日だけど休日出勤お願いしますだって」
『なんだって!? ま、まあとりあえずそれはいいやこの際──』
「良くないよ! 仕事だよ!!」
『あっ、いや、それは分かってるって。でも、ここから出られない限り会社にも行けないから……』
直樹はざっくりと状況を話してくれた。
「……地下ダンジョン? なにそれ面白そうなんだけど!」
『ああ、面白いことは面白いんだけどね。閉じ込められてなければ』
「よし、じゃあ私が助けに行くわ! それじゃ──」
『いやいや、ちょっと待てって! ここの場所分からないでしょ!』
「……あっ、そうだ。で、どの辺なの?」
『うーん……どの辺って言われましても……ささみ頼りで来たってのが無きにしもあらずでごにょごにょ……って、まあざっくり言うと、リビングから外に出て、右斜め辺りの方向に森を進んで行くとフタが開いた宝箱があって、その周辺の地面に木の扉があるんだけど……って、これで分かる?』
「うん、バッチリ! それじゃ急いで行くから待ってて! ささみにも伝えておいてね!」
『お、おう、よろしく……って、たまにスライムが居たりするから念のため武器になりそ──』
プツッ。
何やら面白そうなことになってきたわね、と心はもうリビングの外に飛んでいた香織は、直樹の忠告めいた言葉を最後まで聞くこと無く電話を切った。
普通だったらあんな適当な説明じゃ無事にたどり着けるかどうか不安になるところだが、それよりも"地下ダンジョンに閉じ込められた夫を救いに行く"というミッションに魅力を感じていた香織は、ウキウキの足取りで玄関に向かう。
シューズボックスから一番動きやすそうな靴を探して手に取り、リビングに戻った。
携帯を押し込めたショルダーバッグを肩にかけ、
「フンフンフン♪」
と、鼻歌交じりでリビングの窓を開けて外に飛び出す。
「うわぁ広い!」
香織は、昨晩とは違って明るい空の下に広がる広大な森に感嘆の声をあげた。
ちなみに、香織が今日行って来た"ママ友の会合"は、優衣のクラスメイトである田所流美伊ちゃんの家で行われたのだが、流美伊ちゃんの父親が一流企業の重役だけあって、有無を言わせないほどの豪邸であった。
そして、流美伊ちゃんママから大きな庭の自慢を延々と聞かされ続けてげんなりして帰ってきた所だっただけに、この景色を見てモヤモヤした気分が一気に吹き飛んだような気がしていた。
なんでこんな風になったのかさっぱり分からないけど、ウチのリビングから続いてるんだからある意味ここは全部ウチの庭よね!
この家に付いていた元の庭は正直狭すぎてガーデニングをする気にもならなかったけど、これだけ広ければそれどころか広大な花畑でも作れちゃうんじゃないかしら、と胸躍らせる香織。
モヤモヤを浄化させるように、森の草木が吐き出す新鮮な空気を思いきり吸い込んだ。
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