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「さあて、囚われのオジさんとネコちゃんを探しに行かなきゃ。えっと、たしかここから右斜め辺りを行けって行ってたわよね……」
東西南北でもなく、世にもアバウトな"右斜め辺り"という指示に従い、森の中を歩き始めた。
下手したら広大な森の中で迷子になり、一生帰れなくなるといった悲惨な結末も十分にあり得る状況。
しかし、香織のラック値が平均より高いからか、それともアレで実は直樹の指示が的確だったのか定かでは無いが、その足取りが描く軌跡は真っ直ぐ直樹たちの閉じ込められている地下ダンジョンへと向かっていた。
が、その時。
ガサゴソガサ……。
のんきに歩き続ける香織の右手の方にうっそうと生い茂る草むらが不気味に音を立てた。
「ん?」
香織が草むらの方へと顔を向けた瞬間、
「イムゥゥゥ!」
例の鳴き声を上げながら、スライムが現れた。
すっかり油断しきっていた香織は驚きのあまり気を失う……気配などさらさら無かった。
「あら、可愛らしい」
香織は、あたかも散歩中のダックスフンドとすれ違ったかのような反応を見せた。
まあ、その言葉はたしかにその通り。
香織の前に飛び出してきたのは愛らしい桃色で、らしからぬヘアスタイルをしているスライム。
いや、そもそもスライムにヘアがあること自体レアと言えばレアだが、その髪型が〈ふんわりボブ〉というキュート中のキュート。
そのヘアスタイルのおかげで、スライム最大のアイデンティティーたる頭のトンガリがすっぽり隠れているが、プルプルの質感は紛れも無くスライムそのものだった。
好戦的な目つきをしているものの、若干天然の入っている香織はそれに気付かず、あくまでも目の前に居るのは可愛らしい小動物ぐらいにしか思っていない。
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