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「あっ、誰か来たみたい。ちょっと出てくるね!」
「おう。って、俺もとりあえず中に入るけど」
二人は窓を開けてリビングに上がり、香織は玄関へ、直樹は二階の寝室へと向かう。
一緒に戻ってきたささみは、足音を立てずに家のどこかに消えてしまった。
「おっと、イテテテテ」
直樹は、階段を上がっている途中、踏み込んだ左足に痛みが走り、うなり声を上げた。
天井から落ちてくる紫スライムを避けた時にグネったこと思い出しながら、直樹は文字通り魔法の杖を杖にして階段を進み、何とか寝室にたどり着く。
そして、布袋を床に置き、魔法の杖を壁に立てかけてベッドに倒れ込んだ。
下からドタドタと廊下を走る音。
それに、元気な子供たちの声を聞きながら、直樹は眠りに落ちていった。
テーレーテーレ、レッテッテーン♪
……と、RPGで宿屋に泊まった際に鳴る音の代わりに
「パパ起きて~ご飯出来たよ~」
可愛い娘の声と、体を揺さぶる手によって直樹は目を覚ました。
「……あ、ああ。おはよう優衣」
「なに言ってんのパパぁ。朝じゃないよ~」
「あ、ああ、そうか。昼飯か」
「違うよ。夜ご飯だよぉ」
「ああ、そうか……えっ? 夜!?」
直樹はガバッとベッドから飛び起きて、窓の外に目を向けた。
空は暗く、外に居並ぶ家々は窓から明かりをこぼしていた。
「うわっ、ホントに夜じゃん!」
「そうだよ! 嘘じゃ無いもん!」
優衣は小さいほっぺたをプーッと膨らませた。
「ああ、ごめんごめん。そう言うことじゃなくて、ちょっとびっくりしちゃってさ。ねえ優衣、先に降りててくれない? パパもすぐに行くから」
「はーい!」
優衣は元気よく返事すると、タッタッタと足音を立てながら部屋を出て階段を降りていった。
素直な良い子に育ったもんだ……と、目を細めつつ、直樹はポケットから携帯を取りだして会社に電話をかける。
香織から聞いた『休日出勤』という名の地獄の使命の件について、本当だったら帰ってきてすぐ連絡しようとしてたつもりだったのだが、ふいに居眠りしてしまってもう夜。
なるべく早く確認しておきたかったのに……と直樹は呼び出し音を聞きながら、軽く自分を責めた。
コールが途切れて電話に出たのは、同じ部署の若手の女の子。
焦りを帯びた彼女の声色を聞くなり、直樹は静かにため息をついた。
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