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それでも、ドラゴンやダンジョンなど飛び出すワードが刺激的だったおかげで、子ども達はそこそこ良い感じに食いついてくれる。
いや、食いつきすぎた。
「パパとママとささみだけずるい!! 僕も行きたいよ!」
「ずるいずるい! お兄ちゃんもずるい! わたしも行きたい行きたいぃ!!」
これも、ロフミリアという名の異世界が持つ力か。
歩斗と優衣の好奇心スイッチは強く深く押されていた。
まったく、ただの休日だったら家族4人で一緒に冒険できたのにな……と、直樹は再び大きなため息をつく。
「ねえ、結構大変そうな感じなんだ?」
香織は直樹の様子を心配して声をかけた。
「ああ、何かトラブったみたいなんだよね……」
まだ売り切れないため息を直樹がついてる間も、子ども達は明日の冒険に思いを馳せてキャッキャキャッキャと騒いでいる。
直樹はその姿を見て少しだけ癒やされつつ、
「ごちそうさまでした」
と言って箸を置いた。
「それじゃ明日結構早そうだね。お風呂沸かし直せばすぐ入れるから。今日の疲れを取って、早寝したら?」
「ああ、そうする。明日よろしくな。子どもたち」
「うん! 任せておいて!」
香織はニコッと笑いながら、右手でポンッと胸を叩いた。
妻の明るい笑顔は心に染み渡り、薬草よりも多めに直樹の"現実HP"を回復してくれた。
それから直樹はすぐ風呂に入って歯を磨き、平日用のアラームをセットしてさっさと眠りについた。
そして直樹は夢を見た。
森の中を歩いてると何かに足を取られてつまずき、地面を見ると木の扉があり、開けて中に入ると階段があり、それを降りた先はレンガ色の壁に囲まれた部屋……では無く、事務デスクが並んだオフィスだったという夢を。
「やべっ、遅れる! それじゃ、行ってくる!」
翌朝。
直樹はちゃんとアラームで目を覚ましたのだが、微妙に二度寝してしまいこの有様。
「あなた、行ってらっしゃい!」
「パパ行ってらっしゃい!」
「らっしゃい!」
可愛い妻と二人の子どもに見送られる状況は、決して悪い気はしない。
それがたとえ、憂鬱な休日出勤であっても……と、直樹は思った。
「歩斗、優衣。向こうに行くのは良いけど、無茶だけはするなよ? ウチの近くから離れちゃだめだからな?」
子どもたちに釘を刺し、親の役目を果たした直樹は駆け足で外に飛び出した。
しかし、釘を刺された歩斗と優衣の目が明らかに度を超えた好奇心でキラリと輝き、刺された釘を抜いて無茶する気満々であった……。
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