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第15話 手ぶらの勇者と魔物の国のユセリ
直樹が家を出た後、残った3人は早速異世界に出てみた。
香織は昨日手に入れた種を蒔く準備として、リビング前で草むしり。
子ども達はそのすぐ近くを、ワァワァと叫びながら駆け回る。
生まれてこの方ずっと都市部で生活してきた二人にとって、森という存在自体それほど馴染みがあるわけでは無い。
ここが異世界であるかどうかは関係無く、緑に囲まれているというだけでテンションが上がっていた。
「おい優衣! こっちこっち! ほら、この木のとこに変な虫いるぜ!」
「わぁ、ホントだ! なにこれなにこれ!?」
「これは……カブトムシだな。うん。間違い無い!」
「おお! カブトムシ!! 生で初めて見た!」
「そっか? お兄ちゃんは見たことあるぜ! へへん!」
歩斗はドヤ顔になり、優衣は感動の眼差しを向けているが、残念ながらその虫はカブトムシでも何でも無かった。
確かにパッと見、濃い茶色でそれっぽく見えるが、残念ながらそれはロフミリアの森に棲む別の何か。
しかし、そんなことすら関係無く、手で掴もうとして飛んでいく虫の姿を見上げる二人の目は、スポンジのように少しでも多くの"新しい"を吸収しようとしていた。
「あーあ、どっか行っちゃった。……ねぇ、アユにい。もっと奥の方に行ってみようよ! またこの前みたいに宝箱あるかも知れないし!」
「えっ、うーん……ウチからはあんまし離れちゃダメって言ってたよな……」
10歳の妹より1年だけではあるものの早く生まれた者の務めとして、歩斗は一応慎重さというものを見せて大人ぶってみた。
「あっ……ふーん、そっか。ふーん、なるほどねえ……」
優衣は、口を尖らせて細かく頷き、意味ありげな眼差しを兄へと向ける。
「ちょ、なんだよユイ! あっ、もしかしてビビってそう言ったと思ってんの? だったら全然ちげーし! ちっともビビってねーし!!」
「ふーん、じゃあ行く?」
「ああ、行く行く! ビビってねーから行きまくりだし! 世界の果てまで行くぞおい!」
「わーい、じゃあ行こ行こ!」
手を高く上げてはしゃぐ素振りを見せる優衣だったが、その目はしてやったりとばかりにキラッと輝いていた。
この年頃の男子と女子では(もしかしたらそれ以降ずっと)、本当に大人びているのは圧倒的に後者。
まあ、何はともあれ、子どもパーティーの方針は森の探索ということで一致し、二人揃って仲良く森の奥へと歩き始めた……その時。
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