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ピンポーン
リビングのガラス越しにチャイムの鳴る音が聞こえた。
ガラスの一番近くに居たのは草むしりをしている香織だったが、その作業に夢中になって気付いていない様子。
「ママー、お客さんだよー!」
優衣に声をかけられ、ようやく気付いた香織は
「あらやだ。はいはい、今出まーす」
と、両手をはたいて土を落としてから、リビングの窓をあげて家の中へと入っていった。
「それじゃアユにい、この隙に……へっへっへ」
鬼の居ぬ間にとばかりに優衣と歩斗は森の探索を開始しようとした……のだが、残念ながら鬼はすぐに戻ってきた。
「ねえユイ、シズクちゃんよ。暇だから遊ぼ、って」
「あ、うん! わかった!」
異世界の森への興味などどこへやら、優衣は最初からそうするつもりだったかの如く、あっさり返事をしてリビングに上がった。
「えっ、ちょっとユイ、宝箱探しは……」
すっかりその気になっていた歩斗は、そそくさとその場を去ろうとする妹の背中に向かって声をかける。
「あっ、ごめん。友達優先」
優衣は現実的な理由により冒険パーティの仲間を気持ちいいぐらいの鋭さでバッサリ斬り捨て、駆け足で玄関へと向かった。
「遅くならないようにね~」
香織は娘に声をかけるや否や、再び草むしり作業に没頭し始めた。
ポツンと取り残される形となった歩斗は、さてどうしたものかと数秒悩んだ挙げ句、一人でもやってやろうじゃないかと森の緑に目を向けた。
何か凄いお宝とか、超綺麗な虫とか見つけてユイのやつに自慢してやるぞ!
モチベーションを高めつつ、リビングを背にして森の中へ入っていこう……としたその時。
「あれ、アユどこ行くの?」
ふいに母親から声をかけられた歩斗は、思わず背中をビクッとさせた。
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