第15話 手ぶらの勇者と魔物の国のユセリ

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「え、あ、いや、ちょっとそのヘンまで……」 「うん。了解。男の子だし大丈夫よね。あっ、でも、天気も良いし温かいし、喉が渇いちゃうと思うから何か持って行きなさいね。冷蔵庫の中に入ってるから」 「あ、うん、そーする」  てっきり引き留められるとばかり思っていた歩斗は拍子抜けしつつ、一旦リビングに上がってキッチンに行き、冷蔵庫の中から冷えた飲み物を適当にチョイスして手に取ると、すぐに異世界へと戻ってきた。 「じゃ、行ってきまーす」 「はい。行ってらっしゃーい」  未知の森へ探検しに行くとは思えないほど軽いやり取りを交わす親子。  歩斗はリビングから向かって右手方向、つまりロフミリアの東側、魔物の国がある方へと歩き始めた。  魔法の杖は持たず、アイテムは飲み物が入ったビンだけをというほぼ手ぶら状態で。 「ゴクッ……ゴクッ……なんだこれ? 初めて飲んだんだけど? まっ、美味しいからいっか!」  木漏れ日を浴びながら森の中を進む歩斗。  出発してしばらくたった頃、喉の乾きを覚えて唯一持ってきたアイテムのドリンクを口にした。  ガラスの瓶に入った緑色の液体……そう。例の〈翻訳魔法ポーション〉だった。  昨晩、直樹はこのポーションを常温で保存しても良いのかどうかポブロトに聞きそびれたことに気付いた。  どっちにしようか迷った挙げ句、常温のものを冷蔵庫で保存してもそんなにヤバいことにはならないが、逆の場合は腐ったりだのリスクが高い、ってことで冷蔵庫にしまっていた。  結果、冷えたことで少なくとものどごしは良くなった。  ただし、効果に関する品質についてはまだ未知数である。  まあ少なくとも毒に変わってしまったわけでは無いことは、歩斗の軽い足取りが証明していた。 「ふう、結構遠くまで来たよなぁ?」  歩斗は後ろを振り向き、もうすっかり家の姿が見えなくなってることを確認しながら呟いた。  ここに来るまでの間ほとんど同じ景色が続いており、特別変わった事は何も無かったのだが、それでも歩斗はいま自分は冒険してるという満足感に浸っていた。   「そろそろ戻ってもいいかな……」  見えない誰かに許可を得ようとしたその時。 「うわっ!」  歩斗は、足のつま先が何かに当たって転びそうになるのを逆の足でグッと堪えた。  まるっきり、昨日の父と同じリアクション。  つま先が何かに当たった場所を調べてみると、これまた父が見たのと同じ四角い木の扉の存在に気付いた。  そう言えば、地下ダンジョンの入口が木の扉だとか言ってたような……と、生姜焼きを食べてる時に直樹から聞いた説明をぼんやり思い出しつつ、歩斗はおもむろにその扉を開けてみると、そこには階段があった。
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