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歩斗は自分自身を、内弁慶でどちらかというと人見知りするタイプだと自覚していたので、会って間も無い相手とこうやって素で笑い合えていることに驚きを隠せなかった。
それが、この普通とは違う世界のせいないのか、それともこの子と気が合うからなのかはまだ良く分からない。
少なくとも、ユセリともっと仲良くなりたい、という気持ちだけは間違いない。
「そうだ、アユト。早くそれ着けてみなよ」
ユセリは、アユトが握っているスキルチョーカーに視線を送りながら呟いた。
「いや、でも……」
「いいのいいの。だって、そもそもそれは人間専用のアクセサリなんだから。私が持っててもただの飾りでしか無いんだから」
「ああ、そうなんだ……じゃあ貰っとく!」
人間専用で自分は使えないってことはつまり、ユセリは人間じゃ無いってことになるが、歩斗はそれがまだいまいちピンときていなかった。
と言っても、ここでまたウジウジと言葉を連ねたら本気で呆れられそうで、ひとまず好意を素直に受け取った方が良いと判断。
……が、しかし。
それはそれでまた別の問題を引き起こした。
チョーカーというアクセサリの付け方が分からなかったのだ。
サイズ感からして、何となく首に付けるんじゃないかという所までは分かったのだが、如何せん留め方がさっぱり分からない。
それに気付いたユセリが身を乗り出し、
「こうだよ」
と、歩斗の手からチョーカーを奪い取り、背後から手を回してあっという間に付けてしまった。
「サ、サンキュ……」
ユセリの指先が首に触れて、またドキッとしながら礼を言う歩斗。
今日は心臓のスペアがいくつあっても足りないな……なんてことを考えながら、恥ずかしさを紛らわせるような話題を探す。
「そういえば、これって〈魔物召喚スキルチョーカー〉って言ってたよね? 魔物召喚ってどういうこと? なんとなく想像できなくも無いんだけど……」
「うん、まあそのまんまだけどね。魔物召喚って言うのは、戦闘中に魔物を呼んで一緒に戦って貰えるようになるスキルなんだけど、そのチョーカー1つで魔物を仲間にすることと魔物を召喚することの2つが出来るの。……これで何となく分かった?」
「ああ、分かった分かった! やっぱすげーやこれ!」
恥ずかしさはどこへやら、身につけたアクセサリの能力の高さに鼻息を荒げる歩斗。
それを見て、ユセリはニコッと笑った。
「じゃ、早速試してみる?」
「えっ? 試すって魔物を仲間にする……ってこと?」
「そうそう。せっかくゲットしたスキルなんだから、使わなきゃ損でしょ?」
「ま、まあそうだけど。『仲間にする』って一体どうやって……??」
そう言いながら、歩斗は何年か前に学校の学芸会でやった桃太郎の話を思い出していた。
「もしかして、エサをあげるとか……きびだんご的な……」
「きびだんご? なにそれ……って、ううん、違うよ。魔物はエサで簡単に釣られるほど単純じゃないんだから!」
「あっ、なんかごめん……」
「ふふっ、別に良いんだけど。とにかく、どうやって仲間にするか……それはズバリ、魔物と仲良くなること! って、当然よね。アユトだって、仲が良い友達には喜んで力を貸すでしょ?」
「うん。そりゃまあね。ってことは、ユセリはもう召喚できるようになってるってこと?」
自分で言っておきながら、歩斗はポッとなってしまう。
だって、それはつまり自分がもうユセリにとって力を貸したい存在にまでなってる、って自分で言ってるようなもので、今の発言は無かったことにしたかった。
しかし、ユセリはその気持ちを良い意味で裏切った。
「うん、もちろん! 私って、こう見えて結構人見知りなの。それなのに、こうやって会ってすぐの子と普通に楽しく話せるって珍しいんだよね。だから、私としてはアユトはもう友達だって思ってるよ。……とか言っちゃって」
ユセリは猫のような舌をペロッと出してはにかんだ。
その言葉と仕草を間近で受け止めた歩斗は、なぜか息苦しさを覚えていた。
それは恋……ではなく、単に初めて身につけたチョーカーの締め付けによるものだった。
しかし、異世界の地下ダンジョンで見つけたお宝が、そのスキルチョーカーだけではないことは間違い無さそうだった。
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