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「そうそう。そのチョーカーを装備してるとね、魔物と普通に話せるようになるの」
「へー、凄い! って、ユセリも魔物なんだよね? なのに、これ付ける前から話せてなかったっけ?」
「えっ、だって《ロフレア語》で喋ってるから当然でしょ?」
「ロフレア? なにそれ……?」
絵に描いたようにキョトンとする歩斗。
「はっ? あんた人間だよね?」
「うん。もちろん!」
「ってことは、ロフレア人だよね?」
「うん……いや、違う違う! ボクは日本人だよ! ロフレアってなんなの??」
歩斗だってそこまで世界の国々について特別詳しいわけでは無かったが、ロフレアなんて名前は聞きかじったことすら無く、見る見るうちに頭の中のハテナマークが増殖していった。
またもや、ポブロトから説明を聞いていた直樹が居ればすぐに解決した事案だったが、残念ながら今頃会社でマジメに(もしくはイヤイヤながらも)休日出勤を全うししているはずだからどうしようもない。
ただ、この件に関して戸惑っているのは歩斗だけでは無かった。
「ニホン人? それこそなんなの、って感じなんだけど……。てっきりロフレア人かと思ってたからロフレアの言葉で話してたし、普通に通じてたし……」
歩斗の中のハテナマークが口から飛び出して感染したかのように、ユセリの頭の中も徐々に浸食されつつあった。
その様子を見た歩斗は、彼女に質問ばかりしてるだけじゃダメだと思った。
有名私立中学校に挑めるほどの優等生では無いにせよ、そこそこ勉強は出来る上、頭の回転も決して遅くは無い歩斗は自分なりに考えてみた。
話の流れから言って、ロフレアというのはたぶんどっかの地名なはず。
どっかと言うのは間違い無く、自分が住んでる方じゃなくてこっちの世界のどっか。
と言うことは……
「ねえユセリ。ボクってさ、この世界の人間じゃないんだよね」
「えっ……?」
「なんで来たのかとか細かいことは全然分からないんだけど、とにかく突然、家のリビングの外がこっちの世界に通じちゃったの。だからなんて言えばいいのかな……ユセリの方から見て、ボクは異世界の人間ってことになる……って感じ?」
そう言いながら、歩斗自身も頭の中がこんがらがってほどけなさそうになりかけていたが、ユセリには案外通じていた。
「異世界……か。そういえば、前にチラッとそんな話を聞いたことがあるような気もする。まあ、とにかくロフレア人じゃ無いことは分かったよ。でも、だとすると、なんでこうやって言葉が通じてるのかが不思議なんだけど……あっ、もしかして、何か飲んだ? 翻訳魔法ポーションとか?」
「ホンヤクマホウ?? いや、そんなの……って、あっ! もしかして、冷蔵庫に入ってたあの謎ジュース……」
歩斗はガラスの瓶に入った緑色の液体について思い出していた。
よく分からないけど、それがホンヤク……ああ、翻訳ってことか!
「うん、飲んだかも! その翻訳魔法なんとかって──」
と、その時。
「あの……なんか込み入った話してるみたいで黙ってたんですけどイムゥ、帰らせてもらっていいですかイムゥ? 用事があるもんでイムゥ……」
そんな二人のやり取りをずっと大人しく見守っていた水色スライムが、困り顔で申しわけ無さそうに囁く。
その姿勢の低さと丁寧な言葉に、歩斗は思わず吹き出しそうになった。
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