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「あら、アユおかえり」
どんだけ広大な土地を使って家庭菜園をするつもりなのか、相変わらず草むしりを続けていた香織が息子の姿に気付いて声をかけた。
「うん、ただいま……じゃないけど! ねえ、アレってまだうちにあるっけ?」
歩斗は走ってきた足の熱を冷まさないようとばかりに、その場で足踏みしながら母に尋ねた。
「うん、あるわよ。確か、食器棚の隣のカゴの中に……」
「お、良かったまだあるんだ! ……って、なんで分かったの!?」
「もちろん。ポテトチップスでしょ? フレンチサラダ味のやつアユ好きだもんね~。でも、そろそろお昼ご飯だからちょっとだけにしておきなさいよ?」
「うん、わかった頑張ってみる……って、違う違う! アレだよアレ! ほら、前に皆既日食見に行った時、買って貰ったメガネみたいなやつ! 黒いセロハンみたいなので出来たやつだよ!」
母親の天然ぶりに呆れた歩斗の足踏みは地団駄に変わっていった。
「あら、そっち? えっと、確かあれはアユが偉く気に入ってたから捨ててないはずなんだけど……あっ、そうだ! 最近見たわそういえば」
「えっ、マジ?」
「うん。確か、食器棚の隣のカゴの中に……」
「いやいや、それはポテトチップスでしょ?」
「うん。ポテトチップスも入ってるけど、あのメガネも入ってるのよ。アユが好きなものだから固めて置いておいた方がいいかなって……」
「なんじゃそりゃ……ま、いいや。とにかくそこにあるんだよね」
歩斗は母の決めた謎の収納ルールに苦笑いしつつ、靴を脱いで窓を開けてリビングの中に飛び込んだ。
キッチンに駆けていき、例のカゴの中を漁ってみると、確かに紙で出来たサングラスが出てきた。
何はともあれ、すぐにその在処を教えてくれた事には感謝の気持ちを抱きつつ、再び異世界へと舞い戻る。
「あったよ、ありがと!」
永遠に続ける気かと思える程、一心不乱に草むしりを続ける母の背中に向かって声をかけつつ通り過ぎる歩斗。
「あら、良かったわね! って、また行くの? そろそろお昼ご飯だから、遅くならないようにね~!」
「うん、わかった! とりあえず急いでるから行く!」
歩斗は問題を解決するための最高のアイテムを握りしめ、光る木を目指して一直線に森を駆けていった。
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