第1話 からあげの匂いとスライム

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「えっ、なに!?」    叫ぶ歩斗。 「ひぃ~」  怖がる優衣。 「もしかして……泥棒?」  縁起でも無いことを呟く香織。 「か、風で飛ばされた何かが窓に当たっただけじゃないかな? はは、ははは……」  直樹は家族のみんな……というよりは自分を納得させるために理由をあてはめようとした。   「そっか。そうよね。こんな人気(ひとけ)のあるタイミングで泥棒が来るわけ無いわよね」 「そうそうそう。そうだよ! なにかだよ! 泥棒以外のなにかに違いない」 「よかった~。ねえパパ。なにかってなに? ねえ、ちゃんと見てみて!」 「……えっ?」  無邪気な娘の残酷な言葉が直樹の心に突き刺さる。  何かは何かなんだから、別にわざわざ確認する必要無いでしょ……もし何かじゃなくて泥棒だったらどうするんだよ……とは言えず。   「よ、よし。じゃあ、ちょっくら確認してみようか……」  直樹は、一家の主として覚悟を決めた。  スッと椅子から立ち上がり、ゆっくりとリビングを横切ってオレンジ色のカーテンの目の前までやってきた。  ふと振り向くと、ダイニングテーブルに座った3人がジッと直樹の方を見つめていた。  再び視線をカーテンに戻す。  フーッ、と大きく息を吐き出す。  よし。  ここでダラダラしてたら、父としての威厳が──  バタンッ!!  さっきと全く同じ異音が再び鳴り響く。 「うわっ!」  直樹は驚き余って、無意識に両手でカーテンを掴んで思いきり開いた。  窓の外に広がるのは夜の闇。  視線を地面の方に落としていくと、部屋の明かりに照らされた青い何かが佇んでいた。 「ス、スライム……!?」  それはまさしく、スライムだった……!
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