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「あっ、おかえり」
変わらぬ勢いで煌々と輝き続ける光葉樹に背を向け、ネコのように手を揃えた座り方で待っていたユセリは、歩斗の姿に気付くなり声をかけてきた。
「ただいまおまたせ! いい物持ってきたぜ!」
歩斗は、紙サングラスを自慢げに見せつけた。
「えっ、なにそれ? ちょっと見せて見せて!」
ユセリの食いつきの良さに、歩斗の顔から満面の笑みがこぼれた。
「これって……メガネ? でもなんかヘンな感じ」
少なくとも、こっちの世界にもメガネというものがあるんだ、と歩斗は思った。
そして、ユセリはそのヘンな感じのメガネを訝しがりつつ掛けた。
「ほら、そのままあの木の方を見てみ」
歩斗は目を細めながら光葉樹を指差す。
「うん」
ユセリはクルッと体を反転させて、光の方に目を向けた。
「……おお! ……おおお! 見える見える! めちゃくちゃ見える!」
ユセリはぴょんぴょん跳びはねて喜びを表した。
これは大正解過ぎたな……と、咄嗟の判断に我ながらうっとりする歩斗。
がしかし、本当の目的はここからだった。
「ねえ、ナオルナの実っぽいのありそう?」
「うん、いま探してるとこ……あっ、あれかな? 上の方の枝に、丸っこいのぶら下がってる!」
「おお、やった! ……って、上の方ってどのぐらい上?」
「うーん……かなりかな」
見上げるユセリの顔の角度で、歩斗は大体その高さの察しがついた。
どう考えても、ジャンプして届きそうな距離ではない。
それはたとえ子どもじゃ無く、大人の背の高さを持ってしても。
となると、どうやって取ればいいのか……悩みはじめる歩斗の横で、ユセリは腕を伸ばすストレッチなんかしはじめた。
「よし、私が取ってくるよ! 木登りは得意なんだ!」
そう言って、ユセリは勢いよく光の中へと飛び込んで行った……のだが。
「うわぁぁ! 目がぁぁぁ!!」
少し進んだ辺りでいきなり苦悶の声をあげると、すぐさま踵を返して歩斗の元へと戻ってきた。
どうやら木に近づくと前からだけじゃなく四方八方から光が差し込んでくるので、紙のサングラスでは防ぎきれないようだ。
「大丈夫? ねえ、ちょっとそれ貸して」
「う、うん……」
歩斗は、ユセリから受け取ったサングラスを掛けて、木の方に目を向けた。
そこはモノクロの世界。
大きな大木のシルエットが視界を覆っていて、さっきユセリが見ていた辺りを思い出しながら顔を上にあげてみると、確かに丸い実のようなものがぶら下がっていた。
思った通り相当な高さで、ジャンプだけじゃ絶対届きそうもない。
ユセリの言うとおり木を登っていくしか手段は無さそうだったが、歩斗は今までそんなことやってみようと思ったことすらなく、行ける自信はゼロに等しい。
「うーん……そこに見えてるのになぁ……」
歩斗は悔しさのため息を吐き出しつつ、ふと視線を下に向けたその時。
大きな木の根元あたりに、四角いシルエットを見つけた。
「あれはもしかして……」
小声で囁きながら、歩斗はゆっくりその四角いシルエットがある方に近づいてみる。
ユセリが苦しんだように、木に近づけば近づくほど紙サングラスの隙間から光が差し込んで来たが、人間の歩斗にとってそれは耐えられないほどでは無かった。
そしてついに、四角いシルエットの真ん前までやってきた。
「これは……宝箱だ! 宝箱があったぞ!」
歩斗は喜び叫びながらバッと振り向くと、ユセリの背中が見えた。
「ホントに? ねえ、開けてみなよ!」
ユセリは背中を向けたまま叫んだ。
言われなくてもすぐにそうするつもりだった歩斗は、宝箱のシルエットの縁に両手をかけた。
そして、丸みを帯びたフタをゆっくりと開け、中を覗き込む歩斗。
「うーん……分かりづらい」
サングラス越しだと、宝箱の中身はまっ暗にしか見えなかった。
「よし、こうすれば……」
歩斗は、宝箱の両サイドを両足で挟む位置に立ち、中を真上から見下ろす体勢を取った。
こうすれば、木から受ける光の量を最小限に抑えることができるはず。
そっとサングラスを取り、今一度宝箱の中を確認してみた。
「こ、これは……」
そこにあったのは、見慣れた形の武器。
「……弓矢だ!」
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