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「クビだってよ、スララス。こりゃ、気を抜けないぜ」
「はイム! たとえブラック企業だとしても、雇われたからには必死で頑張りますイム!!」
「……ちょっとちょっと! 別に私は二人の雇い主じゃないし、人聞き悪すぎじゃないそれ??」
ユセリはプクーと頬を膨らませたが、堪えきれずに吹きだして笑った。
それに釣られて歩斗とスララスも笑い出す。
ほんの少し前に会ったばかりだとは思えないほどの打ち解け方だったが、これが子ども(とスライム)の特権なのだろうか。
ひとしきり笑い合った後、歩斗はスララスの頭の刺さってる丸い実を見て思い出した。
「そうだ。妹がケガしてるんだよね? 早く持ってってあげたら?」
「あっ、そうでしたイム! それじゃ、何かあったらいつでも気軽に呼んで下さイム! それじゃまたイム!」
スララスは、クルッと半回転して背中を向けると、ピョンピョンピョーンと猛烈な勢いで森の奥へと消えていった。
「行っちゃったね」
「うん」
出来たてホヤホヤのパーティーなのに、仲間が一人居なくなったことで一抹の寂しさに包まれた。
「そうだ! 簡単な地下ダンジョンでも行って、経験値稼ぎする?」
「お、それいい! やろうやろう……って、あっそうだ」
歩斗はふと、ある約束を思い出した。
「ん? どーかした?」
「うん、わりーんだけどさ、一旦ウチに帰らないと。さっきこのサングラス取りに行ったとき、もうすぐ昼飯だからすぐ帰ってこい、って母さんから言われてたんだよねぇ」
歩斗は申しわけ無さそうに説明した。
「あ、そっか。うん、わかった。それじゃまた」
妙に素っ気なく受け入れるユセリの顔は、どことなく寂しげだった。
さすがにその様子が気になった歩斗は一瞬考えたあと、
「ねえ、良かったらだけど、一緒に来る?」
「えっ??」
突然のオファーに、目を見開いて驚くユセリ。
「うん。すぐそこだしさ、ウチの親、いきなり友達連れてきてもすぐ受け入れちゃう感じだし。まっ、ユセリがイヤじゃなければだけど……」
「ううん、イヤなわけないよありがとう! でも……恥ずかしいから今日はやめとく! またね歩斗!」
そう言って、ユセリはクルッと後ろを向いてしまった。
「えっ、あっ、うんそっか。じゃあ、またね。って、会いたくなったらどうすりゃいいの? ユセリの家とか知らないし……」
「大丈夫大丈夫。それがあるじゃん!」
ユセリは振り返りながら歩斗の首の辺りを指差した。
「それって……チョーカー??」
「うん。私もアユトの仲間なんだから! 会いたくなったらそれ使って呼んでよね! それじゃまたね~!!」
ユセリはニコッと笑いながら歩斗に向かって軽く手を振ると、ピョンピョンピョーンと猛烈な勢いで森の奥へと消えていった。
「お、おう、また……」
歩斗はスララスと全く同じような動きで去って行くユセリの背中を見送った。
そして、チョーカーで呼べば良いと言われたものの、これをどうやって使えば良いのか分からないんだけど……と、心の中で愚痴っていた。
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