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第20話 勇敢な少女の初冒険
「ただいま~」
友達と遊んでいた優衣が家に帰ってくると、キッチンから何かを炒めている音と美味しそうな匂いが押し寄せて来た。
「わぁ! これは……焼きそばだ!!」
嬉しそうに叫びながら廊下を駆け抜け、キッチンへと一直線に向かった。
「あらユイ。おかえり、グッドタイミング! ほら、もう出来ちゃうから手を洗ってきなさい」
「はーい! あっ、当たった!」
優衣は、今まさにフライパンからお皿へと移されようとしているソース焼きそばの姿を確認すると、走って洗面所に向かい、うがい手洗いを済ませてあっという間に戻ってきた。
「いただきまーす!」
「まーす!」
「はいはい。召し上がれ~」
食卓には香織と優衣、そして異世界の冒険から一旦戻ってきた歩斗の姿があった。
「ねえお兄ちゃん、どーだった?」
優衣は焼きそばをモグモグ食べながら、正面に座っている歩斗に向かって言った。
「ああ、なんか色々あったぜ! 弓矢でナオルナの実をズバーンと撃って落ちてきたやつをスララスに渡したら仲間になってくれて魔物召喚スキルチョーカーで呼べるようになって、あとユセリも呼べるみたいなんだけど呼び方を教えて貰ってなかったから本当に呼べるかどうかはわからなく……ごっふごっふ!!」
興奮気味にまくし立てたながら焼きそばを食べようとしたせいで、思いきりむせる歩斗。
とにかく説明が下手で、固有名詞多めの感想は当然ながら優衣の頭にはさっぱり入ってこなかった。
「もう全然わけわかんないよ! あっ、でも、もしかしてそれがその何とかチョーカーってやつ??」
優衣は箸を皿の上に置き、歩斗の首元を指差した。
それにつられてチョーカーを見た香織は「あら素敵」とのんきに呟いている。
「そうそう。良いだろこれ? へへへ!」
「えー、ずるいずるい! ちょーだいちょーだい!」
優衣は身を乗り出し、無理矢理チョーカーを引っ張って取ろうとした。
「ぐえ~、苦しい苦しい! やめろって、これは兄ちゃんが激しいバトルの末に頑張って勝ち取ったお宝なんだから!」
本当はユセリが倒した敵から出てきた宝箱に入っていた件をさらっと捏造しつつ、歩斗は妹の手を振り払った。
「うえーんひどい~……って、うそーん。よく見たらそんなにおしゃれでも無いし、全然羨ましくなかったもん。それより焼きそば焼きそば」
そう言って、嘘みたいにさらっと引き下がり、大人しく昼食を食べ始める優衣。
「あ、あっそう……」
それはそれで、もう少し欲しがられたかったな、と思いながら何とも言えない表情を浮かべる歩斗。
「ふふふ」
そんな兄妹のやり取りを見て、香織は穏やかに笑っていた。
「ねえ、これ食べ終わったら私も行く! お兄ちゃんちょっと先輩なんだから案内よろしくね!」
「おう! 任せとけ!」
歩斗はドヤ顔で胸をポンと叩いた。
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