61人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごちそうさま! お兄ちゃん行くよ!」
「おう!」
「ふふふ、気を付けてね二人とも」
香織は、そばの一本も残されていないほど綺麗に食べ尽くされた後の食器を片付けながら、どう考えても異世界に送り出すとは思えないほど軽いノリで子ども達に声を掛けた。
「あっ、そうだユイ。冷蔵庫に入ってる緑のジュースみたいなの飲んどきな。あれのおかげであっちの人たちと話せるようになるみたいだから。えっと、なんつったっけな……ホンヨクだかなんだかって……」
「あっ、翻訳でしょそれ? わたし、分からない英語とかよくネットで翻訳したりしてるよ」
そう言いながら、優衣はキッチンの冷蔵庫からガラスの瓶を取りだし、コルクの栓を抜き、まるでペットボトルの炭酸ジュースを飲んでいるかのようにゴクゴクと飲み干した。
「えっ? ネットで翻訳? なにそれ?」
歩斗はキッチンのカウンター越しに驚いた顔を妹に向けた。
「うわっ、お兄ちゃん知らないの? 英語を入れると一発で日本語に変換してくれるみたいなやつ?」
「な、なんだそれ……未来か? 未来の話をしてるのか?」
「違う違う! いまいま!」
優衣は笑いながら空き瓶をシンクの上に置き、兄の隣に戻ってきた。
「ねえ、ネットはやったことあるよね?」
「も、もちろん! なめんなよ! スマホもちゃんと持ってるんだから。パパのお下がりだけど……」
「もう、どうせゲームばっかりやってるんでしょ?」
「ギクッ」
「ほら。ちゃんと勉強しないとバカになっちゃうよ? って、そもそも……」
「う、うっせえ! ゲームもするけど勉強も……って、あっ! しまった! 今日中にやんなきゃいけない宿題がまだ残ってた! ごめんユイ。そっち先に倒しちゃいたいから一緒に行けないや! 一人で行ってら!」
歩斗はまくし立てるように言い終えると、全身から焦りのオーラを放ちながら、2階の子ども部屋に向かって廊下を駆けていった。
「行ってら~じゃないよもう。まっ、いいや。一緒に来てくれても役に立ったかわかんないしね~」
もしこの場に兄が居たら怒ってスララスを呼び出すんじゃないかという毒舌をさらっと吐きつつ、優衣はリビングの窓から異世界の森へと飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!