61人が本棚に入れています
本棚に追加
「ズネー! ズネネネネ!!!」
奇声を発しながら、ネズミのようなタイプの魔物が姿を現した。
サイズは大きな犬ほどあり、どこから出てきたのか不思議なのも恐ろしく、普通の10歳女子だったらキャーと悲鳴を上げて踵を返して逃げ出してもおかしく無い。
ところが、母香織から受け継いだおっとり遺伝子のせいか、突然変異的に獲得した豪胆のなせるわざなのか、優衣は「ん? なんか出た」と一言呟いただけで、特に慌てる素振りは一切見せなかった。
その様子に戸惑ったのはオオネズミの魔物。
「ズネー……? ズネズネ!! ……ズ」
どうすれば良いのか分からず困惑してるようにすら見えた。
それでも異世界に棲む魔物のプライドからか、己の中の凶暴性を精一杯振り絞るようにして、
「シャーーー!!!」
と、細長い口を大きく開け、右前肢の爪を立てて威嚇した。
「あっ、ちょっとヤバい感じ?」
それを見て、ちょっとだけ焦り始める優衣。
「ズネズネズネー!! シャァァァ!!」
相対する少女がようやく恐れを抱き始めた様子を感じ取ったオオネズミは、さらにしつこく威嚇を続ける。
すると、優衣はようやく事の重大さに気付き、半泣き状態で来た道を戻……るなんてことは一切なかった。
「ちょっと、邪魔なんだけど! せっかく宝箱見つけたのに、どいてどいて!」
直樹が仕事から帰ってきてテレビの前で靴下を脱ごうとしているのにクレームを付けるかの如く、身振り手振りを交えながら言い放つ優衣。
オオネズミは一瞬怯みそうになったが、何とか堪えて威嚇を続けた。
「もう! 分かった。そう来るなら……」
魔物相手に早くも怒り心頭に発した優衣は、何かを探そうとして辺りをキョロキョロと見渡す。
「うーん……これでいっか」
土の上に何本か落ちている木の枝の中から一番太そうなのを選んで拾う。
そして、
「ほらほらほら! どかないとこれだよほら!」
優衣は手に持った木の枝を武器にして、オオネズミの体をペチペチと叩き始めた。
小さな人間の少女からまさかの先制攻撃に怯む魔物。
優衣が勇ましさで言ったらほぼ勇者級であることが判明したが、残念ながら武器が悪すぎた。
いくら叩いてもダメージの煙は『0』ばかりでたまに『1』が出る程度。
「もう、これじゃダメ! 剣とか魔法の杖とか無いの……??」
手を休めること無くペチペチ叩き続けながら叫んだ。
すると、
「ほら、これ!」
突然、背後から声がした。
振り向くと、そこには見知らぬ少年が立っていて、ピンクゴールドに輝く剣を優衣に向かって差し出した。
最初のコメントを投稿しよう!