潮騒と息の音

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 少女と話しながら、海沿いを歩いた。潮風が穏やかに感じる。潮騒が心地よく鳴り響く。 そんな海沿いで、彼女は涙に濡れた瞳を向けて、少し枯れた声で問いかけた。 「私のこと、覚えてないの?」 自殺の段取りで頭がいっぱいだった僕には、過去の人を思い出すことなんて唐突な出来事だった。 「幼い頃の記憶に、私はいないの?」 「え……?いや、ちょっと思い出せない……」 「まったく。私のこと覚えてれば、こんなことしないはずなんだからね……」 急に涙ぐんだ少女は涙を拭き、海沿いの案内を始めた。 少女の声に耳を傾ける。  「ここで死んだ人の遺体は向こう側で引き揚げられるの」 そう言いながら、少女は高い崖の下を指差した。そこは幾つもの波が集まるように打ち寄せる壁の凹んだ深い場所だった。 「ここまで流されてくるんだ」 「そうよ。激しい波に攫われて、岩に体を打ち付けられ、身を切りながら、溺れながらたどり着くの」 確かに、ここまでくれば、もう溺れて死んでいるかもしれない。 「幸い、そこまで太った土左衛門にはならないで済むのだけどね」 「詳しいね。見たことあるの?」 「まあね。それだけじゃないわ」 「どういうこと?引き揚げたこともあるの?」 「ううん。声が聞こえるの。みんなの声が」 少女は声を潜め、耳をすました。気づけば東の空に月が昇り始めている。少女が怪しく微笑むと、夜の静かな潮騒の中に、人の声が聞こえてきた。 「……タスケテ……クルシイ……イヤダ……」 僕は思わず耳を塞ぎこむ。しかし、それでも聞こえる。恐怖のあまり、溺れたように呼吸が苦しくなる。僕は、少女に尋ねた。 「君は一体……?」 「怖かったら、帰りなさい。あなたのいるべき場所へ」  僕は、ひとまず落ち着くために宿に戻ることにした。
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