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「私のこと、覚えてないの?」
最期を迎えようとする僕に、幼い日の記憶を呼び覚まそうとする少女の瞳は、涙に満ちていて儚げだった。
僕は、今、潮騒の中に浮かぶ最期の息の音を聞いている……
この海を前にすると、陸地に立っていても、吸い込まれるような、飲み込まれるような、そんな気分にさせられる。この広大な濃紺の海を前に、僕は死んだ魚のような目をしながら、立ち尽くしている。海の向こうの水平線は赤い夕陽に黄昏ている。世の果てでは、太陽と海と空が交わり、この世のものとは思えない幻想的な輝きを放っていた。
まだ太陽が南の空高く昇っている時間には不謹慎な観光客たちがスマートフォンを構え、海を背にして、場違いなピースをしながら馬鹿げた記念写真を撮っていた。なぜ人間は自殺の名所で記念撮影をするのだろうか……?聖母マリアの小さな像が、自殺志願者を労い、慰めるかのように立ち尽くしているが、それさえも記念撮影の玩具にする観光客もいた。どちらにしろ人間は救いのない生き物に感じられてしまう。かくいう僕にも救いなんてものはない。
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