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蓮の飲み会
「今日、飲み会あるから……」
電話口から聞こえてきた金居蓮の言葉。それは今日の誘いを断るものだった。
「そうなんだ。珍しいね」
柴村智穂は寂しさを覚えつつも、しょうがないことだと割り切る。
恋人同士ではない。お互いの誘いはいつも気分次第なのだから、相手に先約があることもある。
しかし、妙に歯切れの悪い蓮の言葉に違和感を覚えたのも事実。
「その飲み会って――。女の子も来る?」
「あぁ……。そうだよ」
だからか、と納得する。
別に付き合っている訳じゃないんだから、遠慮しなくていいのに――。
「そうなんだ、いってらっしゃい。――彼女、できるといいね」
数時間後。
智穂の仕事――。小説の執筆を続けていたが、今日は夕方からまったく筆が進んでいなかった。
「あー、もう全然ダメ!」
両手を上げて降参のポーズを取る。
蓮が女の子たちと飲み会に行くと知ってから、胸のモヤモヤが晴れない。
仕事をしたら気が紛れるかと思い、パソコンに向かってみたものの、何も思いつかない。
時間を見ると、二十一時を回っていた。
今頃、蓮は二次会あたりだろうか。それとも女の子をお持ち帰りして、イイ感じのことをしているのだろうか。
――蓮に彼女ができれば、この関係は終了。
元々どちらかに新しい恋人ができるまでの、割り切った関係だ。
分かっていたし、お互い了承していた。束縛しない気楽な関係だと。
「もう、お風呂入って寝ようかな……」
ピピッ。
立ち上がった瞬間、作業机に置いていたスマートフォンにメッセージが届いた。
普段仕事中はリビングに置いて気を取られないようにしているのに、今日は仕事部屋に持ち込んでいる。その時点で智穂は執筆に集中できていなかった。
「蓮から……」
メッセージの送り主は蓮。開いてみると……。
『シュークリーム買ったんだけど、一緒に食べない?』
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