鬼宿

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 ここでこうしていても仕方ない。離れ離れで動くのはやはり得だとは思わないし、本から得られる情報はこれ以上なさそうだ。ユタカが言ってた、「鬼の弱点がそう簡単に載ってるわけがない」という言い分は真理だと思う。 「そういえば、結局鬼宿しについて書いてあった本は内容どんなの?」 「……誰かが書いた鬼宿しに関するまとめだな、レポートみたいなもんだ。鬼宿し自体の説明はないけど、これのメリットとデメリットが書いてあるみたいだ」 「あ、ここにも鬼って漢字」 ユウカが指さしたのは一文の中の「傀」という字だ。 「たぶんカイって読む。傀儡のク、だな」 「何て書いてある?」 「傀が鬼宿しを取りまとめる、みたいな内容だ。専門用語かな、意味がわからない単語が多い。やっぱり儀式的な事かな。神無月に、一年間だけ、してはならない、……文が結構断片的だ。これだけじゃ内容がわからない」  俺が鬼宿しの本を読んでいるうちにユウカは俺がさっき見ていたいろいろな鬼について書かれた本を見ていた。本当に弱点などがないか探しているようだ。絵が描いてあるおかげで読めなくてもビジュアルはわかる。  載っている鬼の種類は本当に多く、墨の濃淡がページによって違うのでどうやらいっぺんに描いたものではなく長年をかけて描きたしていったようだ。一冊の本になっているので相当な数だと思う。  説明書きは読めないだろうが、絵を見ればだいたいどんな鬼なのかわかる。ユウカはぱらぱらと読み進めた。  しばらくして、誰かが近づいてくる。ユウカはびくりと体を震わせおろおろと辺りを見渡す。隠れるところか、武器か、いずれにせよこの部屋はそのどちらもない。  扉の前で足音が止まり、はあ、と大きく息をついた音が聞こえる。 「……まだいるか」 「ユタカ?」 ユウカが意外そうに声を上げた。ドアをギイとあけて入ってくる。 「勝手に入らないでよ」 「お前に用はねえよ」  先ほどと同じ険悪な空気だが、俺は仲裁などしない。視線を上げもせずに本を読んでいる。 「攻略方法は見つかったのか。見つかってねえよな? 今必死こいて読んでるなら」  はん、と鼻でわらってきたユタカの言葉を無視し、本を読んだまま一応声をかけた。 「ブンタは?」  そういうとユタカが息をのんだ気配をした。ちらりと見ると明らかに動揺している。 「は? ブンタがここにいると思ってきたんだけど」 「ブンタはアンタ追っかたんだけど」 「会ってねえよ」  険悪な空気は緊張した空気へと変わった。さすがに本を読んでる場合じゃないのでぱたんと本を閉じる。 「割とすぐに追いかけたし、追いつかない距離じゃない」  廊下は一本道で、玄関で部屋と別の廊下に枝分かれする形となっている。恐る恐る進んだとしてもお互い気づく距離と時間だったはずだ。ユタカはマジかよ、とつぶやく。 「車のカギあいつがもってるんだぞ、帰れねえじゃん」 「友達が心配だから、じゃないんだな。ブンタは心配して追いかけたのに。お前本当にブンタの友達?」  珍しく俺が畳み掛けるように言ったのが意外だったのか、ユタカは驚いたように俺を見た。俺は無表情のままじっとユタカを見つめたままだ。その言葉にいち早く反応したのはユウカだった。眉間にしわを寄せて俺の腕を掴むと部屋の外へと向かう。 「ブンタ探しに行こう、私たちが見た鬼もこの本に載ってたしなんとかなるかもしれない。ブンタが危ないよ」  俺は無言のまま引っ張られる。振り返りもせず、しかし低い声でユウカは言った。 「……ついて来たら外に蹴り出すから、クソ野郎」  そうユタカに投げかけ、足早に部屋を後にする。ユタカはと言うとさすがに今のは自分の失言だったと自覚があるのかついてくる気配はない。ずんずん進むユウカに引っ張られながら腕話してくれと言おうとしたとき、部屋から声が聞こえた。 「え? 何で、どこから」 ユタカの声だ。ユウカも聞こえたようで立ち止まって振り返る。 そして、あたりに絶叫が響いた。
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