鬼宿

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「いぎゃあああああああ!?」 ガタン、バタンと何かがぶつかる音が聞こえる。俺の腕を掴んでいるユウカの手に力が入る。 「あああああ!痛い痛い痛い痛いやめろやめろおおおおごめんなさいごめんなさ……い、ぎぃ!ひいいいい!」  途中で声がぴたりと止んだ。俺は無理やりユウカを引きはがし、扉を勢いよく開ける。  そこは、ヒジリの時以上に凄惨な光景だった。部屋の中が夕日で照らされている以上に赤い、真っ赤だ。人一人の血の量でここまで部屋中が赤くなるのかと、そんな場違いな感想さえ出てくる。  部屋の真ん中に立っていたのはブンタだった。だらり、と首や手足がおかしな方向に折れ曲がったユタカを首から掴んで持ち上げている。  ブンタ、いや、ブンタの顔をしたそれは俺と目が合うとニコリと笑い、ぐにゃりと違う顔へと変わる。俺の後ろからその光景が見えていたらしいユウカは「は?」と間抜けな声を上げた。  こいつはブンタに化けていたのだ。だからユタカは部屋の中で驚いた、さっきまでいなかったブンタが何故突然部屋の中にいるのかと。  違う顔になったソレは、目、鼻、口がないいわゆるのっぺらぼうというやつだろう、何もない顔になるとくっくっと独特な笑い声をあげた。口がないのであはは、と笑うことができないのだろう。笑いを押し殺しているようなくぐもった声だ。  そして、ユタカの首を両手で持って、雑巾を絞るようにぎゅっとひねり始める。ぐるぐると首をまわして、ぶちん、とちぎった。首からはドバドバと血が溢れる。  もぎ取った頭をぽん、ぽん、と上に軽く投げては受け取ってを繰り返す。間違いなくこいつはスマホを投げてきた、外にいた奴だ。ということは、あの時外でぽんぽん遊んでいた丸いものはたぶんヒジリの頭か。  ぽんぽん、と遊んでいたそいつがぴたりと動作を止める。少し首を傾げた。俺が怖がらない事が不思議なようだ、後ろでビビり散らかしてるユウカがいるからなおさら。  こいつ、今までこうやって人をビビらせながら殺してきたんだな。それが楽しい、と。結構Sだ、いや鬼はだいたい伝承上ではSか。  ぽいっとユタカの首を投げてくる。俺はそれをひょいっと左に避けて余裕でかわし、頭は後ろにいたユウカに向かって転がっていった。 「ぎゃあああ!」  とうとう悲鳴を上げて泣き叫ぶ。避けた時に目線がソレから外れたが、再び視線を戻した時すでにソレはいなかった。ユウカが怯えて満足したようだ。  ひい、ひいい、と泣いているユウカに近づき、落としていた本を拾った。ぱらっとめくってとある1ページを見る。 「百面鬼か」  そう呟いた。そこに載っている絵は、鬼が若い女の姿をしている。しかし鬼の真後ろには同じ女が倒れて死んでいる。鬼の目の前には家族だろう、男と子供が喜んだ様子で手を広げて迎え入れている。つまり、女を殺し女の恰好をして親しい人間に近づいたということだ。  ユタカがヒジリ殺しの時俺を見たと言っていたのもたぶんこいつだ。俺たちがこの村についた時俺たちの様子を見聞きして、ヒジリが俺に少しだけ心配するそぶりを見せたりしたからヒジリは俺の姿を見せれば警戒しないと思ったのだろう。あとは、親しい人に殺されるという絶望を味わわせるためか。別に親しくないけどな。
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