鬼宿

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「あ、ああ、あ……」  ユウカががくがくと震え、先ほどの百面鬼を見るとの同じような目で俺を見る。 「何であんな光景見て平気なんだ、って?」  ユウカが考えているであろうことを言うと、ひっく、ひっくとしゃくりあげて泣きながら小さくうなずいた。素直だな。思考回路が止まってるんだろうけど。 「頭がおかしいからかな。人が死ぬ姿も、鬼も、別に何とも思わない」  これだけ言うと完全にこいつやばい奴、と敵意を出されそうなので一応フォローをする。 「俺の出身はド田舎で、鬼の伝説があった。何歳の時だったかな、家族も近所の人も皆殺しだった、鬼としか思えない存在に殺された」  まるでおもちゃが壊れるように、鬼が腕を振るうとバタバタと人が死んでいく。普通に眠るように死んでくれればまだなんとも思わなかっただろうが、体の部位が吹き飛んだり内臓が出たりと酷い有様だった。そんなものを延々見続けて、感覚がおかしくなったのだろう。なんとも思わなくなった。 「ホラー映画もパニック映画も、トラウマになるくらい怖いっていう話や映像を見てもふうん、としか思えなくなった。そりゃもっとすごいモノ見たんだから当然なんだけど」  言いながらも百面鬼の説明を見るが、やはり弱点などは書いていない。まあ世の中そんなもんだ。ついでにさっきの百面鬼の本当の顔、のっぺらぼうの説明なんかも書いてないから不完全な要素が多い。  のっぺらぼうであることは人前では明かさなかったのかもしれない。同じ人間が二人いるとかそういう場面を見ただけなのだろう。さっきは俺が怖がらなかったから見せたんだろうけど。 「で、どうすんの」 「え、なにが……」 「俺と一緒に行動するのかしないのか。精神異常者と一緒は嫌だって言うなら」 「い、一緒、一緒にいるよ! 一人とか無理、嫌!!」  悲鳴交じりで叫ぶ。そう、とだけ言うとユウカはゆっくりと立ち上がる。 「タ、タツキ君は鬼について詳しいんでしょ? なんかないの、対策とか……」  あったら今探してないんだが、もう突っ込むのも疲れたので首を振った。 「妖怪とかと違って鬼は弱点が記されたものってのはない。酒呑童子みたいに倒されたエピソードの鬼もいくつかあるけど、だいたいは有名な武士が討ち取った、みたいな簡単な説明だけだ。まあ、武士が勝つなら刀で戦って首刎ねたとかそんなのだろ」  鬼も首を刎ねたり心臓を貫けば死ぬのかもしれないが、首を落として首だけで逃げた鬼もいるしそもそも心臓がない鬼もいた。何で死ぬかなんてその鬼次第と言える。それに鬼を倒したというエピソードはそうやって鬼が倒されてくれないと物語が終わらないからだ。あくまで人間の常識に当てはめた殺し方で死んでいる鬼は創作の可能性が高い。  馬鹿正直にそれを言ってしまえばユウカは恐怖で足腰立たなくなるだろうし、泣き崩れてどうしようもなくなる気がしたので少し前向きな言葉をかけてみる。 「例えば、だけど。よくサバイバルにあるみたいな、踏むと足にロープが絡まってそのまま宙づりになる罠とかなら、少しの間そこにとどめておける。その隙にこの家燃やしちまうとかすれば鬼も焼ける、死なないかもしれないけどダメージはある。その間にもう一個か二個動きを止めらえる罠張って、その隙に逃げるのがベスト」  抽象的な事を言っても通じないと思ったので具体的にそう言えば、わずかにユウカの瞳に生気が戻る。 「そ、うだよね、うん、死なないかもしれないなら倒す必要ないよね」  ま、宙づりにしたところでロープ切って秒で襲い掛かって来るだろうけど。あの身体能力見る限りそんな罠に引っかかるとも思えない、猪とかじゃあるまいし。
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