98人が本棚に入れています
本棚に追加
何でブンタを信用すると決めたのかユウカに聞かれたので、さっき俺が考えた意見を二人に説明しておいた。すぐに殺しに来なかった事、お互いしか知らない情報を知っていたのなら、顔だけ見て化けるだけのアレにはできないはずだ、といった内容だ。
「一応証明のためにもうちょっと追加情報言っておくか」
そういうとブンタもユウカもここに来るとき車中で話した内容などを言い、俺は鬼についてしゃべり始めたら1分くらいで二人から止められた。そして冷静になった二人はお互いに疑ってごめんと謝った。まともな性格の二人だ、この状況でこういうことができるのは感心する。
俺が持っていたフェイスタオルでブンタの腕を止血する。きつく締めすぎると傷周辺の細胞が壊死して良くないので本当に止血程度だ。この怪我はユタカの顔した奴に会い、いきなり襲われたらしい。ただし運よくそいつの足元に穴が開いていて、体勢を崩したので全力で逃げたそうだ。鬼も穴にはまるんだな。ってことは、本当に罠にはひっかかってくれる可能性があるってことか。
「あと言っておかなきゃいけないのは、ユタカは死んだ」
ブンタは目を見開く。ユウカも小さくうなずいた。軽く状況を説明し、ユウカが頭を下げる。
「私が一人にさせた。ごめん」
「……。あいつとは友達だから、気にするな、とは言えない。でも、ユウカのせいだとは思ってない……」
絞り出すような声だ。この感じだとブンタもユタカがブンタを友達ではなく便利に使える奴としか思っていなかったことには気づいていたようだ。でも、それでもブンタはユタカを友達だと思い接してきた。それが見事に肯定されたので、死んだショックとそのショックのダブルパンチが効いているらしい。
口には出さないが、車の鍵を持ってるブンタが合流したのはありがたい。あとは逃げるだけなのだが、やはり鬼の動きは止めておきたい。マジで二匹以上いたら嫌だからな。未知の生物が出るパニックホラー系の醍醐味として、条件を満たすと無限に増えるとかお約束だ。鬼が増殖するとは聞いたことがないが、それはそういう文献しか残っていないからそうだと思ってしまっているだけかもしれない。俺だって鬼の見分けがつくわけじゃないし。
一応どうやって罠にはめるかを考えたいが、口に出して相談すればいつどこでアレが聞いているかわからない。お互い持っている道具などを見せ合い手持ちの装備で何が出来そうか確認することにした。
俺はナイフ、そういやLEDライトはユタカがもってたんだ、今ない。あと軍手とウェットティッシュだけ。ブンタとユウカは車にほぼおいてきているので財布とかだけだった。あとタバコとライター。
使えそうなの物がエタノールのしみ込んだウェットティッシュとライターだけなら、火だるまにするしかない。あいつが燃えやすい服を着てくれている事を願うしかない。道具を二つ前に出して見せると二人とも理解したようにうなずいた。鬼がウェットティッシュを知ってるとは思えないから、例えこっそり見られていたとしても道具を見せ合っただけなら問題ないはずだ。
今俺たちを分断するのは難しい。お互いある程度疑心暗鬼は解消されているからだ。となると、百面鬼は次にどんな手を使ってくるか。それはだいたい想像がつく。たぶん、直接仕掛けてくる。
バゴン、と凄い音がした。調理場でこそこそとしていた俺たちへ百面鬼からのアクションがあったのだ。音の正体は凄まじい勢いで投げ込まれたものが壁に当たり中身が飛び散ったらしい。
ぼと、と落ちて二人の足元にごろりと転がったのは、ユタカだった。
ユタカの頭。
最初のコメントを投稿しよう!