鬼宿

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 人の頭とは丸いはずだが、それは酷く歪な形をしている。当然だ、中身が飛び散るくらいに割れているのだ。普通は骨に守られて陥没するはずなのだが、飛び散りやすいように割れ目を入れられたようだ。  ユウカはスプラッタな光景に、ブンタは友達の変わり果てた姿と自分が今飛び散ったものを左半身に浴びてしまったことに一気に感情がこみ上げる。 「うわああああああああああ!!!」 「きゃああああああ!!」  ほぼ同時に二人が悲鳴を上げるとバギャ、と負けじと大きな音を立てて扉が破壊された。現れたのは顔のない鬼、百面鬼。ぐにゃぐにゃと顔を歪ませ、ユタカの顔になりニタリと笑う。  やっぱり直接来たな、もう誰にも化けられないから。パニックになって部屋を飛び出した奴がいればまたじわじわ殺しに行ったのだろうが、あいにく二人とも固まってしまっている。というか、たぶんユウカは腰抜かしてる、しゃがみこんでるし。  ニタニタ嗤っているそいつが、ふと俺を見て笑うのをやめた。また不思議そうに首をかしげる。やっぱり俺がビビらないことが不思議なようだ。 「ご期待に添わないようで、申し訳ない」  そう言うと皮肉を理解したのか、一番距離が近いからかそいつが一気に距離を詰めてきた。腕を振り上げ俺を殺しにかかる。そう来ると思った、と俺の足元にあった小さな踏み台のようなものを蹴り上げて百面鬼の顔面に当てた。一瞬動きが止まった隙にこれまた調理場に置いてあった、相当長い事放置されている桶に溜まった何かの液体を顔目がけてぶつける。溜まっていたなら水じゃない、たぶん油かな。酸化しすぎてヘドロのようになっているが。これは燃やすのは期待できないが目潰しにはなった。  誰かの顔をしていると目も鼻も口も耳もある。つまり、それだけ弱点が増えるのだ。こいつに痛覚があるかどうかは知らないが、もしあるなら目は激痛だし、痛覚がなくても目の前の物が見えなくなる。  どうやら痛覚はあったようで、顔を押さえて壁に激突した。たぶん今顔をのっぺらぼうに変えて目をなくそうとしている  はっとしたブンタが必死にライターをつけようとするが、手が震えているのかなかなかつかない。ユウカがブンタ早く早くと叫ぶがそういうのはますます慌てさせるからやめた方がいいのに。  百面鬼がブンタ目がけて飛び掛かる、何かをしようとしているので止めようとしているようだ。しかしまだ顔を戻していないらしく、歪なユタカの顔のまま飛んだものでうまく制御できずブンタからわずかにそれて何かに激突した。 激突した先には備蓄していたのだろう、小麦粉のような白い粉が大量に舞った。それをみたユウカが先ほどとは違う意味での恐怖に顏を歪め悲鳴を上げる。 「ブンタ待っ……」  その瞬間、シュっと音がしてブンタがライターをつけることに成功した。炎が凄まじい勢いで部屋の中に広がった。めらめらと燃える、など生易しいものではない。一瞬で調理場すべてが炎に包まれたのだ。 「ぎゃああああああああああああ!! ああああ!!!」  悲鳴はユウカのものだ。いやあ、助けて、出して、あついあつい、やああああ!! と声があがりガタンガタンと音までする。出口を求め、炎を避けるため動き回っているのだろうが炎で目が焼けたのだろう、上手く見えてないようであちこちにぶつかりまくっている。  その様子を、俺とブンタは眺めていた。ブンタは何が起きたかわからず地面にへたりこんでいる。 「え?」  ようやく声を出して理解した。何故自分が外にいるのか、何故家が燃えているのか、何故ユウカが悲鳴を上げているのか。呆然と目の前の光景を見続けていると、壁に大きく開いた穴から火だるまになった人間が転がるように出てくる。「ソレ」がユウカだと気付いたブンタはハっとして慌てて近づき、火を消そうとするがのたうちまわるユウカは一か所におらず、火だるまを追いかけるブンタという図ができあがっている。止まってくれユウカ、と叫んでいるがそりゃ無理ってもんだ。たぶんユウカには聞こえていない。
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