鬼宿

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 俺はそれをチラリと眺めただけにして、目の前の穴を見つめる。するとこちらも全身火だるまにはなって、ユウカほどオーバーではないが火を消そうと地面に転がる百面鬼が出てきた。一応火だるまは効果があったようだ。さっきの目といい、痛覚はあるんだな。だったら痛みを与えれば動きが鈍くなるかもしれない。  少し離れたところでブンタの悲鳴と、ピクリとも動かなくなったユウカがいた。地面の砂をかけて必死に火を消している。 「なんなんだよ、なんなんだよおこれぇ……!」 泣き叫ぶブンタに、マジで言ってるのかと呆れて一応教えておこうと思った。 「何って、粉塵爆発起こしたのお前だろ」  俺の言葉に目の焦点があっていないブンタが俺を見てくる。もう粉塵爆発の説明するのめんどくさいから割愛でいいか。  理系のユウカは知っていたのだ。入口が破壊されていたとはいえ無風状態で粉が大量に舞った場所で火をつけたらどうなるか。漫画とかでたまに見るような場面だが本当に起きるとは俺も思っていなかった。  やっぱり極限状態の人間ってのはロクな事しないな。もう何もしないでほしいからちょっと釘を刺しておこう。 「ユウカはほっとけ、どうせ助からない」 「何、言って、何言ってんだよぉ! 生きてる、まだ生きてる、助けなきゃ」 「全身火傷で助かる割合の面積超えてる。救助も呼べなくて、車で1時間以上走らないと人が住んでないような場所で助かるわけないだろ。1時間以内には死ぬだろどう見ても」  今気道の確保してやればワンチャンあるんだが、それもしないでほっとかれてるのでゼイゼイと息苦しそうだ。たぶん肺の中まで焼けているか、まあ頑張っても助からない。 「おま、お前……!!」 「ユウカを『殺した』のはお前だろ、俺を責めるな」  その言葉に、ずっと握りしめたままだったライターを見る。悲鳴を上げてライターを投げ捨てた。その場で泣き叫ぶブンタを放置して改めて百面鬼を見る。  よろよろと立ち上がり、のっぺらぼうのまま俺の前に対峙した。ダメージはあったようだ。うう、ううう、とくぐもった声を上げている。 「余裕ぶっこいてはしゃぐからだ」  俺の言葉を合図にしたかのように俺にとびかかって来る。馬鹿の一つ覚えというか、まっすぐ突っ込んでくることしか知らんのかコイツは。ああそっか、目がないから真っすぐにしか動けないのか。  真正面にきた百面鬼の首を右手で鷲掴みにして持ち上げた。俺より微妙に低い奴で助かった、宙に浮かせることができる。たぶんブンタの目には一瞬すぎて何が起きたかわからなかっただろう。特にリアクションらしいリアクションがない。  掴まれた百面鬼はバタバタと手足を動かす。俺の手を引きちぎろうとしたのか、腕を掴もうとしてきたがその前に俺が百面鬼の両腕をナイフで切り落としていた。ちゃんと研いできてよかった。ついでにさっき台所で拝借した錆びた包丁を心臓に突き刺してみる。びくりと大きく体をのけ反らせたがバタバタと足を派手に動かしている、死なないか。心臓がないのかもしれない。  蹴りをしようとした百面鬼の右足を、ナイフを捨てて掴むと首から手を離しそのまま布団叩きでもするように思い切り地面へと何度も叩きつける。何だっけ、こういう遊びあったな。ああ、確かメンコ。昔よくやったっけ。  何十回と叩きつけると、ようやく静かになった。死んではいないようだが、必死に立ち上がろうとしては失敗する。それはそうだ、全身の骨が複雑骨折してぐちゃぐちゃだろうから。曲がっちゃいけないところがあちこち曲がっていてまるで軟体動物の様だ。 「さて、お前は頭がなくなったら死ぬタイプの奴か?」  そう言ってナイフを拾い一閃させて首を切り落とした。その瞬間ブンタの悲鳴があがる。鬼からは大量の血が溢れ、びくびくと体が痙攣したが動かなくなった。俺は頭を掴んだままブンタへと近寄る。頭がくっついて復活してもらっても困るので持ち歩いたのだが、ブンタの恐怖を煽る結果となった、当たり前だが。
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