鬼宿

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 夏休み、暇だから肝試しでもしようと大学の知人から……友人ではなくたまに話をする程度の間柄なので知人、そいつから誘いを受けた。もちろん断ったが、都市伝説で最近有名になってきている廃村があり鬼が関わるエピソードがあるんだが、とニヤニヤされて言われた。もちろん飛びついたのは言うまでもない。  俺、言い出しっぺのブンタ、インテリ意識高い系のユタカ、ミスなんちゃらに選ばれたヒジリ、ヒジリの友達という直接の面識はないユウカの5人。他にもメンバーはいるらしいが、人数が多いと面白くないので2~3グループに分かれるのだとか。まず先陣が俺たちで、日を分けて他のグループも行くらしい。  都市伝説はありきたりで、昔何かあって村人が全滅したとか……あまり興味がないので話を半分も聞いていなかった。俺が知りたいのは鬼の部分だけだ。自分でも調べたがネットの噂程度の情報しかなく、その村と周辺には「カイ」という鬼があらわれるという言い伝えがあるということくらいだった。  試しに軽く調べてみたがやはり資料らしい資料は見つからず、どこから出た噂なのかもわからないような曖昧なものだった。だから面白いんだろ、とブンタはノリノリだ。  ブンタの運転する車で向かっているのだが道中はブンタとユウカ、ユタカとヒジリがだいたいペアになって話していた。俺が呼ばれたのは肝試しを盛り上げるため、というのは言われなくてもわかっている。鬼について話して適度に恐怖をあおり、ついでに変な奴だと存在が浮くことでこの二組が成立しやすいようにしたのだろう。じゃなきゃ友達でもない奴を誘ったりしない。  車内でもしきりに都市伝説の話になり、俺は適当にそこそこ食いつきがよさそうな鬼の話だけしておいた。ありきたりな鬼の話などしてもつまらないから、変わったエピソードの鬼の話をいくつか。どうせ鬼の成り立ちとか、奥深い話は期待されていない。  真相まではわからない鬼の話をてきとうにすると4人のリアクションが良かった。こわーい、なにそれ~、本当かな~。そんな反応をてきとうに聞き流しつつ、「カイ」と呼ばれる鬼についてスマホで調べたりしていた。鬼、という伝説の割に具体的な内容がない。でも名前だけはあるという中途半端な情報量だ。噂の出どころがわからないし、どうせネットの掲示板あたりから盛り上がった話だろうからそんなもんだろうけど。  高速をいくつか乗り換えてザ・田舎という道を1時間ほど走ったところで適当な空き地で止まった。午後4時過ぎ、夏なのでまだまだ明るく夕日にもなっていない。  肝試しと言えば夜だから車中泊、と言われて一応泊まれる準備はしてきた。ブンタは父親から借りたと言って小型のキャンピングカーで来たのでそれなりに普通に寝泊りはできそうだ。全員同じ車中で寝るからエロイ事しないように、なんて冗談を言いあって盛り上がっていた。心底どうでもいい。  女子はミニスカートやヒールで来ているが、行き先はどう見てもそんな恰好では怪我もするし絶対疲れる。女子って本当、身なり整えることに体力と命かけるよな。  俺は長袖とパーカーを着ていて、靴は迷ったがスニーカーではなく安全靴にした。見た目が暑苦しいぞと皆から笑われる。 「蚊と毛虫と雑草による切り傷防止」  一言だけ言うと案の定女子たちが辺りを見渡してようやく察したらしく「やだやだー」などリアクションする。廃村って言ってるのに何で大都会並の光景が広がってると思うんだか。ヤダって言ってもな、じゃあ行かずに留守番でもしてるんだろうか。
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