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『……ひょっとしたら、刻印を担当した者が誤った数字を刻んだのかもしれません。大変申し訳ございません。もしご希望でしたら、本来の番号を刻印したものとお取替えいたしますが……』
現実的に考えられる範囲の可能性を口にしたスタッフは、本当に申し訳なさそうに提案してくれたが、取替えを依頼した場合、少なくとも数日はわたしの手から指輪が姿を消すことになるだろう。
そうなると、彬くんにも指輪の不在を知られてしまう。
そんなことになれば、わたしが指輪に対して疑惑を抱いていたこともばれてしまう。
『…いえ、それには及びません。ほら、こうして指にはめてたらシリアルナンバーも見えないし、気になりませんから。大丈夫です』
わたしがこの店に来たこと、指輪について調べていることは、彬くんに知られたくなかった。
だって、彬くんに不信感を持ってるように思われたら心外だ。
わたしは不信感を持ってるわけではない、ただ不安なだけなのだ。
それでも申し訳ないと眉を下げるスタッフに、それならばと、冗談風にあるお願いをしてみた。
『それじゃあ、この指輪のナンバーは欠番にしていただけますか?それなら、この世に同じシリアルナンバーの指輪は存在することもなくなりますし』
あくまでも冗談っぽく言ったのだが、スタッフからは『もちろんです』と返ってくる。
『そうですね……今のペースでいくと、だいたい二年後にはそのナンバーに辿り着くと思われますので、その際は、そちらのナンバーを飛ばすように全店舗にきつく申し付けておきますので、ご安心くださいませ』
親切丁寧に説明してくれたのだが、わたしの中では、たったひとつの点だけに意識の照準を合わせてしまう。
『……二年後?』
『はい。おそらくその辺りになるかと存じます』
その、聞き覚えのある時間の単位に、わたしは絶句してしまった。
だから、その後のスタッフとの会話は見事に記憶には残っていない。
代わりにわたしが記憶に張り付けたのは――――二年後。
二年後に、いったい、何があるのだろうか。
けれどそれは、わたしには確かめようのない事なのだと、どこかで達観している自分もいたのだった………
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