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彼の今日のメニューはサンドイッチ二つに焼きそばパンとコロッケパンだ。
わたしだったらサンドイッチ二つでお腹が膨れ上がってしまいそうだけど、これだけ食べても放課後には空腹で仕方ないというのだから、高校生男子の食欲が底なしであることは間違いないだろう。
わたしが、その痩身のどこにそれだけの食べ物が入るのだろうかと本気で不思議がっていると、
『……で?』
紙パックの野菜ジュースをズッとストローで吸ってから、前崎くんが問いかけてきた。
『え?』
『だから、人探ししてるんだろ?それで、俺のほくろが何かヒントになるかもって思ったんじゃないの?』
興味なさげにしてた前崎くんに、てっきりその話題はもう終わったとばかり思っていたわたしは、驚いて握っていた箸を落としそうになってしまう。
『あ、っと……』
焦って箸を掴むと、前崎くんの大きな手のひらが助けに入ってくれた。
なんの前触れもなく、心の準備もできないまま、突然触れ合ってしまった手と手の感覚に、その温かさに、わたしの心臓は特大のバネが生えたように跳ね上がってしまった。
『―――っ!』
ビクリ、と手が震えてしまったわたしに反して、彼はいたって普通の温度で。
『長堀って、しっかりしてるのに時々そそっかしいよな』
前崎くんは、ハハッと笑いながらわたしの手を離した。
わたしだけがドギマギしてしまうなんて、なんだか悔しい。
けれどそんな内心を知る由もない前崎くんは、『それで?その人ってどんな人?』と、いつもの調子で話を進めてくる。
わたしは悔しいやらドキドキやら、複雑色になっている感情を短い深呼吸でやり過ごし、前崎くんを正面から見つめ、箸を置いた。
『前崎くん、一緒に探してくれるの?』
『…協力できることがあるなら』
前崎くんの返答は若干控えめのテンションに下がった気もするが、ほくろでつながった縁だと思い、わたしは、今はもうあまり口にする機会も減っていた懐かしい思い出の封を解くことにしたのだった………
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