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『なになに?なんて言ってたの?』
自分に関係してることだったら、俄然興味が出てくるのだ。
わたしは食い付き気味に尋ねたのだけれど、前崎くん…彬くんは、はっきりとは覚えてなかったらしい。
『何か言ってたのは覚えてるんだけどなぁ……何だったかな』
『もう!そこは覚えておいてよ!』
多少のクレーム色で訴えると、思わぬ反論に出くわして。
『だって仕方ないだろ?あの時は俺、それどころじゃなかったんだ。ずっと千代のことが気になってて、叔父の話を全部記憶してる余裕なんかなかったんだから』
『え………?』
訊き返したわたしに、彬くんの真剣な眼差しが降ってくる。
『だから、俺は、千代の前だと舞い上がってしまって、叔父の話なんか重要なとこ以外は全部すっ飛んじまってたんだ。つまりそれくらい、千代が好きだった…てこと。もちろん、今はあの頃よりもずっとずっと好きだけど』
決して悪ふざけなんかではないテンションで告げられて、わたしはドキドキが加速して、なんだか感情が熱さで焼けてしまいそうになって……
『もういい!わかったから!わかったから、それ以上は言わないで』
彬くんと何年も付き合ってきて、彼のこういうセリフにも慣れてきたとはいえ、やっぱり気恥ずかしさは拭いきれないのだ。
出会った頃は無口な人だと思ってたのに、まさかこんな風に甘い言葉を嗜む人だったなんて……
高一のわたしが知ったら、きっと、吃驚するに違いない。
昔の自分相手にささやかな優越感を覚えたりして、心には、くすぐったい幸せが満ちてくる。
ああ、彼のことが好きだな……そう思うと、嬉しくて、嬉しくて。
そんな風にして、わたしは、わたし達は、穏やかに、誠実に、温かに、愛情を育てていったのだった。
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