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私が彼女にはじめて会ったとき、彼女はもう、余命宣告を受けていた。
「わたし、あと一年もてばラッキーなんですって」
ふふっと笑う彼女は、この病院で私が最初に担当した患者さんだった。
お名前は、前崎千代さん。
入院中の患者さんとは思えないほど朗らかで、物腰のやわらかな、上品な女の人だ。
穏やかな優しい笑顔がトレードマークのようで、それは、夜眠る前の安息のホットミルクのようだと、私は第一印象でそう感じた。
数年前にご主人に先立たれ、お子さんもなく、お一人で暮らされていたらしい。
そのせいかどうか定かではないが、病気の発見が遅れ、診断がついたときにはもうどうしようもなかったそうだ。
私が担当についたご挨拶をさせていただいたとき、もう余命宣告からは半年ほどが経過していた。
それを思い出した前崎さんは、
「あらやだ、余命一年と言われてからもう半年経ってるのだから、今の時点では余命半年よね。わたしったら、ボケちゃってるわね」
クスクス笑う前崎さんに、私はどんな表情で返したらいいのかが分からなかった。
看護師の資格を取得してからずっとクリニック勤務だったので、命に関わる患者さんを受け持ったことがなかったからだ。
こうするべき、ああするべき…そんなマニュアルごとは学んでいたが、いざ面と向かっての会話となると、人の生き死に関する会話の正解なんて存在しないのだと肌で感じていた。
特にこの前崎さんという女性は、自分の死期が迫っているというのに、とても明るい振る舞いをして、毎日楽しげで、気構えていたこちらが拍子抜けしてしまうような人だったので、余計にどう接したら良いのかが掴めなかったのである。
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