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私は「いえ、そんなことは……」と曖昧に返事しながら、輸液ポンプの流量を確認した。
すると、唐突に前崎さんが尋ねてきたのだ。
「ところで岸里さん、あなたは自分をロマンチストだと思う?それとも、現実主義な方かしら?」
「え……?」
「だから、岸里さんはロマンチックな話を信じられるタイプ?」
私が前崎さんへの接し方に戸惑ってしまったので、おそらく気を遣って話題を変えてくれたのだろうが、その話題もまた、掴みどころのないものだった。
「ええと………たぶん、ロマンチックな方、だとは思いますけど……」
前崎さんの求める回答がどちらなのか想像もつかず、私はただ正直に述べるしかなかった。
けれどどうやらそれが正解だったようで、前崎さんはパッと、満開の笑顔を、真っ白な清潔が過ぎるベッドの上で咲かせたのだった。
「そうなの?それはよかったわ!」
私はその質問の意図はまったくもって分からなかったが、前崎さんの機嫌を損ねることにはならなかったようなので、ひとまずホッとした。
重い病気を抱える患者さんの場合、ちょっとした機嫌の変化でも容態が左右されてしまうからだ。
「新しい担当さんがロマンチストでよかった」
嬉しそうに言う前崎さんに、私は「前任の方は違ったんですか?」と訊いた。
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