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「そうなのよ。前の看護師さんも、前の前の看護師さんも現実主義の人だったの。わたしの好きな映画や小説の話をしても、『そんなの所詮は物語の中だけのことですよ』なんて言うものだから、全然おしゃべりが楽しくなかったのよ?」
唇を尖らせる前崎さん。
でもそのすぐあとに、「いけない。ここだけの話にしておいてね?」と肩をすくめた。
私は前崎さんの前担当看護師を思い浮かべてみた。……確かに、二人とも、感受性が豊かなタイプではなさそうな印象だ。もちろんそれが悪いわけではないけれど。
私はこの病院に最近来たばかりで全職員を把握してるわけではないが、全体的な雰囲気として、ここの職員はどちらかというときっちりした人が多い感じがした。まあ、言い方をほんの少し変えれば、きつい性格とも言えるのは否定しない。
当然、ここに来たばかりの私がそんなことを口にできるわけもなく、私は「そうなんですか?」なんて、当たり障りのない相槌を選んだ。
けれど前崎さんは私の無主張な相槌を華麗に見送り、「これから毎日楽しくなるわねえ」と、まるで遠足のお知らせプリントを配られた小学生のようなワクワク顔で、「よろしくね、岸里さん」と言ったのだった。
そしてそれが何のことを指していたのかは、すぐに明らかになるのだった。
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