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二年後――――それが何を示していたのかは分からずじまいだったが、二年後、わたし達には、大きな出来事が起こってしまった。
彬くんのお母さまが、亡くなったのだ。
急逝だった。
持病もなく健康そのものだったお母様が出先で倒れたと連絡が届いたとき、彬くんは不在だった。
仕事が休みの日で、朝食の後、『ちょっと出てくる』と言い残して出かけていたのだ。
わたしはあまりの突然の知らせに、自分の両親が事故に巻き込まれた時のことを思い出し、狼狽えた。
いい大人なのにぽろぽろ大粒の涙を落としながら、お母さまが運ばれた病院に駆け付けたのである。
彬くんには、すぐ病院に来るようにとメッセージを残しておいたが、ちゃんと伝わったかどうかは分からない。
でもそんなことより、義母の無事を一秒でも早く確認したかった。
看護師の案内で病室に向かうと、そこには、慌ただしいなんて表現では間に合わないほどの光景が待っていたのだ。
医師と看護師が落ち着きなく動き回っていて、大声の指示が飛び交う、映画で見かける戦場シーンのようだった。
その隅で、わたしはスタッフに義母の確認を求められ、詳細を問われた。
けれど義母の容態にしか気持ちが向いていかないわたしは、きちんと受け答えをした自信はなかった。
わたしの両親のときは、もうすでに手遅れだったが、義母は違うのだと、かすかな希望にすがる思いで祈り続けた。
けれど、医師の焦ったような動きが鎮まっていき、わたしは、楽観的な想像よりも、よもやの事態が頭を掠めた。
そして、
『前崎さん…で、よろしかったですか?』
今さっきまで響き渡っていた大声とはかけ離れた静謐な医師の声が、はじめてわたしに向けられたのだった。
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