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そうやって、勤務の合間、もしくは勤務の前後、前崎さんの病室にお邪魔するようになってしばらく経ったとき、私は、前崎さんから再びあの質問を受けたのである。
「ねえ、岸里さんは、自分のことをロマンチックな方だと思ってるのよね?」
日勤が終わった17時過ぎ、仕事帰りに前崎さんの病室に寄って温かいお茶を飲んでいたときだった。お茶といっても、院内の売店で購入したペットボトルのほうじ茶だけど。
「え?ああ、前にもそんなこと仰ってましたね。ええ、そうですよ。リアリストかロマンチストかと訊かれたら、私はロマンチストの分類ですね」
前崎さんは今日も上機嫌で、体調も安定していて、気がかりなことなど何一つない、そんな夕方のことだった。
だから私は普通に答えたのだ。
いや、むしろ今の質問のどこを深読みできたのかすら分からないが、とにかく私は、ただ素直に肯定しただけで。
けれどそれが、前崎さんにとってはある種のリトマス試験紙となったようだった。
「それじゃあ、わたしの話も信じてもらえるのかしら?」
「前崎さんの話って、どんなお話ですか?」
腰かけている簡易椅子の背もたれから体を起こし、私はやや前のめりになって訊き返した。
少しの好奇心を携えて。
「そうねえ、わたしと夫の………のろけ話、かしら」
夫もずいぶんロマンチストだったのよ?
そう言いながら、クスクスと吐息を踊らせる前崎さん。
その様子は、思春期の少女のようで、可愛らしいと思った。
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