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「誰かー! 手を貸してくれー!!」
土煙が晴れ、落下してきたビルの残骸の山が姿を現す。
誰かが助けを呼ぶわけはすぐに分かった。
小さい子供が瓦礫の下敷きになり、動けなくなっていた。
「助けなきゃ!」
体はすぐに反応してくれた。
瓦礫をどかそうとしている、同じ高校生ぐらいの少年に手を貸す。
子供は気を失っているが、足が挟まれて出られない状態だ。すぐに命の危険はないが、怪獣がやってくる前に助け出さないといけない。
しかし、瓦礫は重すぎてまったく動かなかった。
「レン、手伝って!」
「馬鹿! そんなことしてる場合か! 逃げないと俺たちもやばいぞ!」
「でも、この子が!」
「そんなのレスキュー隊に任せとけよ! 俺たちができることじゃない!」
レンの言うことは正しい。
レンが加わったところで、この瓦礫を動かせないことは誰が見ても明らかなのだ。そして、ここに残っていては二次災害になりかねない。
レンは強引にあたしの腕をつかんで、連れて行こうとする。
「ダメだって! 見捨てられない!」
「じゃあ、どうすんだよ! 一緒に死ぬってのか!? 俺は嫌だぞ! 自分が死ぬのも、お前が死ぬのも!」
あたしだって死にたくないし、レンにも死んでほしくない。別にあたしも、レンに心中を頼んでるわけじゃないのだ。ただ、この子を助けたいだけで。
「そうじゃなくて!」
言葉で説明するのがあまりにももどかしくて、レンの手を振り払ってしまう。
「くっ……。勝手にしろ!!」
レンは一人で行ってしまう。
何度か振り返り立ち止まったが、そのまま走り去った。
「いいの? 逃げなくて?」
少年はあたしたちが言い合っているときも、子供を助けようと小さい瓦礫を取り払い、てこの原理で大きい瓦礫を持ち上げようとしていた。
「……いいの」
別にレンを恨む気にはなれなかった。
あれが普通の反応なのだ。少し違えば、あたしもそうしていたかもしれない。
「あなたこそいいの?」
「君と同じで、放っておけなくて」
少年は一瞬だけふっと笑い、すぐに瓦礫除去に戻った。
ヒーローはまだ現れていないようで、怪獣は縦横無尽にビルを蹴散らしながら、街を移動している。叫び声や建物を破壊する音から、少しずつ接近しているのが分かる。
轟音と地面の揺れに気持ちは焦るが、大きな塊となっている鉄骨やコンクリートをどけるのは、かなりの難事だった。
「君はもう逃げて。あとは僕がやるから」
「そんなわけにいかないでしょ」
「でも、もう……」
少年の言いたいことはよく分かる。
怪獣の姿がさらに大きく見える。このままでは三人とも、怪獣のつぶされてしまうだろう。
周囲は避難が終わったのか、もう人は誰も残っておらず、閑散としていた。
「10年前……僕は怪獣に殺されそうになったんだ」
「え?」
「そのときのことはよく覚えてる。こんなふうに街が崩され、人が逃げ惑って、怪獣が近づいてきて……。もうダメ、もう死んでしまう。そう思ったんだ。でも……ヒーローが助けてくれた。だから、怪獣に襲われて困っている人がいたら、助けようと決めたんだ……」
「そうなんだ……」
この街の人は怪獣襲来を経験している。だからこそ、レンのように怪獣に対して恐怖がある。しかし、一方で怪獣に立ち向かいたいという人もいるみたいだった。
でも、あたしは当時のことがまるで記憶にない……。
「あたしが持ち上げるから、あなたが引っ張り出して」
「え? でも……」
「こう見えても、力には自信があるの」
力自慢なんてしたことない。でも、不思議と自信があった。
四の五の言っている場合ではないと少年も承知し、それぞれ位置につく。
コンクリートの塊をつかみ、大きく息を吸う。
そして一気に持ち上げる。
「うおおおおおーっ!!!」
重い、重すぎる。
腕が外れ、血管が張り裂けそうだった。
息も苦しい。歯が砕け、血液が沸騰するのではないかと思う。
だけど、火事場の馬鹿力というのだろう。
瓦礫がわずかだが、ほんの少しだが持ち上がった。
だが腕が限界を迎え、ドンという音を立てて、瓦礫が元の場所に落ちる。
「はぁはぁはぁ……ナイス」
「そっちも!」
一瞬の隙を見逃さず、少年は子供を救い出していた。
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