だからヒーローは戦える

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「この子は僕がおぶっていくから、逃げよう」  少年は子供を背負いながら言った。 「あたしは残る」 「え……?」  少年が驚くのも無理はない。言ったあたしも驚いている。 「今なら分かるんだ。ヒーローがヒーローする理由。困ってる人を放っておけないでしょ?」 「そうだけど……。君はヒーローなの?」 「あたし? あたしはヒーローじゃないよ。ただの女子高生」  そういってあたしは、前へ進み出る。  怪獣はもう目の前にまで来ていた。巨大な首をもたげ、こちらをにらみつけてくる。 「今日この場までは」  パーカーに入れていた父の形見を取り出す。  母はきっと悲しむだろう。あたしのことをマヌケだと言うだろう。 「あたしだってお父さんの子だからね」  怪獣は街を壊す。人を殺す。もう何人死んでるか分かったものじゃない。  このままではさらに何人死ぬだろう。いや、怪獣を目の前にして、あたしも少年も助かる可能性はかなり低い。  そんなときに何をすればいいか?  ヒーローならば、父ならば、きっと迷わない。  傷だらけのブレスレットを右腕につけた。 「あたしがこの街を守る!!」  が、何も起きなかった。 「え、なんで!? 変身できるんでしょ、これ!?」  ブレスレットをコツコツ叩き、ボタンらしきものがないか探ってみるが、やはり何も起きなかった。 「もしかして、壊れてる……?」  怪獣が雄叫びを上げる。  けたたましさに耳をふさぐが、脳が揺さぶられ、頭がおかしくなりそうだ。 「逃げてーー!!」  少年が叫ぶ。  顔を上げると、怪獣が巨大な口を広げて待ち構えていた。  死ぬ。確実に死ぬ。あたしの命もあと数秒だ。  あとは祈るしかないだろう。  すがる者は何か。神か仏か。いや、あたしは違う。 「……お父さん、力を貸して」  そのとき、ブレスレットから激しい光があふれ出した。  あまりのまぶしさに、顔を近づけていた怪獣はたまらず目を背けてのけぞった。  そして光は、あたしの体を包んでいく。  温かくて心地よい。  これが力の解放。ヒーローへの変身だ。 「これがブレスレットの、あたしの力……」  人の思いが強くする。  何かを守りたい気持ちが力をくれる。誰かを頼りたい気持ちが勇気をくれる。  2メートルもないちっぽけな体だけど、30メートルもある怪獣相手でも、負ける気が全然しなかった。  父は死を恐れたのだろうか。その問いは今なら分かる。 「怖い。でも、ヒーローは戦える!」
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