花束をもう一度

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そして待ち合わせ当日。美保はいつもより少しだけお洒落をして待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせ時間より十五分前には到着したはずなのに、既に啓太は店の前にいた。今時のスーツを着こなした彼は、美保を見るやいなや笑顔で手を振ってきたので、美保は彼の方へ駆け寄った。 「近藤さん。お待たせしてしまいました?」 「いや、僕も今来たばかりですよ。席は既に予約していますので、行きましょう。」 啓太はさりげなく美保をエスコートしながら店内に入った。美保も満更でもないようだ。 「啓太さんって女性への扱いがお上手ですね。」 「そんなことないですよ。僕はただ当たり前の事をしているだけです。」 「当たり前なんかじゃないですよ。うちの旦那なんてそういったことはちっとも出来ませんから。」 そうこうしているうちにメニューが来たので、各々目を通した。飲み物の種類も豊富であるが、マカロンに至っては五十種類以上あり、美保は思わず目を丸くした。 「こんなに沢山の種類があるんですね…。」 「ええ、どれもこれも美味しそうですよね。僕が全部ご馳走しますから、美保さんは好きなだけお召し上がり下さい。」 啓太の好意に甘える形で、美保は季節限定マカロン食べ比べセットをオーダーした。それを聞いた啓太も同じ物を注文し、程なくして可愛らしいマカロンが沢山並んだ皿が運ばれてきた。どれもこれも絶品で、美保も笑みをこぼす。 「どのマカロンも美味しいですね!連れてきて頂きありがとうございました。」 「いえいえ。先日のほんのお礼です。美保さんのような親切な方に拾って頂けて助かりました。」 「いえいえ。」 「でも、今考えたらあの時スマホを置き忘れていて良かったって思うんです。」 「え?」 「だってこんなに素敵な女性に出会えたんですから。旦那さんがいらっしゃるのが残念ですが…。」 啓太がこんな事を真顔で言うので、美保は顔を真っ赤にしてしまった。 「ごめんなさい、困らせてしまって。こんな事、人妻にいう台詞ではなかったですね。でも、本気でそう思ってます。」 啓太は少し寂しげに笑った。そして固まってしまっている美保に語りかける。 「美保さん。もし宜しければこの後少し街を散策してから解散にしませんか?ちょっと今中途半端な時間ですし。」 断るべきなのだろう。自分に好意を持っていると匂わせる男からの誘いなんて。既婚者が受けるべきものではないし、美保も頭ではそれを十分に理解していた。しかしそれとは裏腹に、気がつけば美保はこっくりと頷いていた。そして、二人は一時間ほど街を散策した。寛人とも昔はこんな風に散歩したな。あてもなくフラフラとうろついて、とりとめのない会話をして…。些細な事だけど、それが凄く幸せだったと美保は懐かしく思い出した。 「あの…またお会いしてもいいですか?」 啓太の言葉で我に返る。 「まあ、お互いの予定が合えば…。」 美保も否定はしなかった。それを聞いて啓太はにっこり笑う。 「予定なんていくらでも合わせますよ。それではまた。」 啓太はそう言うと、手を振りながら人混みの中へ消えていき、美保もまた身体がほてっているのを感じながらその場を後にした。  その日の晩。美保は啓太とのデートの余韻に浸っており、割と上機嫌である。相変わらず寛人は、妻の機嫌については特に気にしていないようだが。 「もう疲れちゃったから先に寝るわ。」 「珍しいな。まあそんな日もあるだろう。お休み。」 「…お休みなさい。」 美保が寝室へと去って行った後、寛人は一人でビールを飲んでいると、メールの着信音が鳴った。こんな時間に誰だ?と訝しみながらスマホを開けてみると、送り主は美保の友人である橘里奈だった。確かに面識はあるが、あくまで美保と一緒の時にしか会っていないのに何のようだ?と不審に思いながらメールを開く。 『間宮寛人さん。突然の御連絡、申し訳ありません。実は、美保の事で話があります。重要な話なので、直接会って話したいです。いつでも構わないので、少しだけお時間頂けないでしょうか?』 こんな事が書かれてあったので、寛人はますますわけが分からなくなった。
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