花束をもう一度

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結局、寛人は里奈と会うことにした。メールが来てからちょうど一週間後の土曜日に、二人は喫茶店で待ち合わせた。寛人が行くと、里奈は既に席に着いており、彼に目配せする。 「寛人さん、お久しぶりです。」 「お久しぶりです。数ヶ月前に、美保と三人で食事に行った時以来ですね。」 挨拶もそこそこに寛人は切り出す。 「あの、美保についての話ってなんですか?」 「…これを見て下さい。」 里奈は寛人に自分のスマホを差し出す。 「こ、これは…。」 寛人は絶句したが、無理もない。それは、美保と見知らぬ男性が親しげに歩いている写真だったのだから。 「先週の土曜日のことです。街で偶然美保を見かけたので声をかけようとしたら、全く見知らぬ男性が横にいて…。思わず写真を撮ってしまいました。」 「で、でも、それだけでいかがわしい関係だと決めつけるのは早計ではないでしょうか?私達が知らないだけで、この人はただの友人なのかもしれない。」 「私も最初はそう思って、しばらく二人を観察していたんです。でも、友人というにしてはかなり親密そうでした。事情を知らない人が見たら、恋人同士だと容易に信じてしまうくらいには…。どうしようか悩んだのですが、寛人さんにはお伝えするべきだろうなと思い、連絡させて頂きました。」 寛人が固まっている中、里奈は伝票を手に取って立ち上がる。 「とにかく、気をつけて下さい。」 里奈はそう言うと、さっさと踵を返して店を出て行ってしまった。寛人が慌てて後を追うも、既に里奈の姿は見当たらなかったので、仕方なく帰路についた。美保が浮気しているのか?でも流石にあの写真だけでは確定できないし、今までの美保にはそんな浮ついた様子はなかった。でも、写真の中の美保は幸せそうだったし…。悶々としながら帰宅すると、クローゼットの中を物色する美保を見つけた。啓太と明日会う約束をしており、その準備をしているのだ。うきうきしながら洋服を選んでいる彼女の姿を見ると、里奈の話は現実味を帯びていると実感せざるを得なかった。 「ただいま。…明日何かあるのか?随分と楽しそうだが。」 「あら、私の事なんかには興味ないのかと思ってたけど。違うの?」 美保は冷たく返す。寛人が黙っていると、美保は溜息をついた。 「友達に会いに行くだけよ。たまにはいいでしょ。…ああそうそう、あと一時間程でご飯出来るから、時間になったらリビングに来てね。」 美保はそう言うと、キッチンへとそそくさと行ってしまった。一方、寛人の不信感は積もるばかりだ。彼女を信じたいが、状況的にあまりにも怪しすぎる…。どうしたものかと寛人はしばし考え込んでいたが、白黒はっきりさせるため、明日彼女を尾行する事を決意した。
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