花束をもう一度

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一時間程経った頃、二人はとある縁結びで有名な神社に到着したが、寛人は思わず目を見張った。そこは、かつて自分が美保に告白した場所だった。美保も同じようなことを思ったのか、何とも言えない顔をしている。そして寛人の予想通り、啓太は緊張した面持ちで美保に告白した。 「初めて出会った時から美保さんに惹かれている僕がいました。そして、その想いはこの二回のデートでさらに強固なものになりました。旦那さんがいるのは承知の上で、率直に言います。僕と付き合って下さい。僕は絶対貴方に寂しい思いはさせません。必ず幸せにしますから…。」 頼む、断ってくれ…。寛人は祈るように美保の方を見る。美保はしばらく悩んでいる素振りを見せたが、やがてゆっくりと頭を下げた。 「ごめんなさい。お付き合いはできません。」 寛人も啓太も呆然としていた。沈黙が続いたが、ロボットのようにぎこちなく啓太が口を開く。 「え、えっと、どうしてでしょうか?この二回、楽しく過ごせたと思ったのですが…。」 「ええ。啓太さんとのデート、とっても楽しかったです。女性としての幸せを久々に味わうことができましたし、私が欲しかった幸せってこういうものなんだなあって思いました。」 「だったらなぜ…。」 「でも、その間も常に頭に浮かぶのは旦那の事でした。私、やっぱり旦那のことが好きなんだと気づいたんです。夫婦生活がマンネリ化して、寂しい思いも沢山しているけど、それでも好きなのは彼だけでした。だから…ごめんなさい。」 それを聞いた寛人は気がつけば飛び出していた。 「美保!!」 寛人の突然の登場に二人は仰天している。 「寛人!?」 「美保さんの…旦那さんですか?」 目を見開いている美保に対し、寛人が口を開こうとした瞬間、少し離れた所から舌打ちする音が聞こえた。全員が音の鳴った方向を向くと、そこには里奈がいた。 「橘さん!?」 口を開いたのは啓太だった。慌てて里奈は叫ぶ。 「ちょ、ちょっと!」 失態に気づいた啓太は顔面蒼白になった。その一方で寛人と美保は怪訝な顔をする。 「え、なんで里奈がここにいるの?そして、啓太さんはなんで里奈の事を知っているのですか?」 美保が二人を問い詰める。寛人も疑いの目を二人に向けている。しばらく沈黙していた二人だったが、やがて里奈が開き直ったように話し出した。 「美保の結婚式の時に寛人さんと出会ってから、私はずっと寛人さんの事が好きだったの。でも、貴女の幸せを邪魔してはいけないとずっと堪えてきた。一人で苦しんできた。でも、この前美保が寛人さんの事について愚痴ってきたとき、私の中の何かが音を立てて弾けたの。貴女は寛人さんと結ばれる幸せをちっとも理解していない!ちょっと素っ気なくなったくらいなによ!私はずっと、貴方達を横で眺めている事しかできないのに…。だから、いっそのこと寛人さんとの仲を裂こうと思ったのよ。この男は私が雇った別れさせ屋よ。あとちょっとで上手くいったのに…。」 里奈は話し終えた後、声を上げて号泣した。二人は思わぬ展開に唖然としている。 「つまり、私に美保の浮気疑惑を密告したのも含めて、全て貴女が仕組んだことだったのですね。」 「…そうよ。」 寛人は静かに里奈の所に近づいた。 「私が言うのもなんですが、里奈さん。貴女が今まで抱えてこられた苦しみについては、理解します。私だって貴女の立場なら、日々友情と恋の狭間で苦しみ続けていたことでしょう。そして、今回の件は私が不甲斐ない夫だったからこそ、起こった事だというのも十分理解しています。美保が彼に惹かれかけていたのも、元はといえば私が彼女をほったらかしていたせいですし。…しかし、今回貴女がしたことは決して許されることではありません。一発レッドカードです。今後二度と、私と美保に関わらないで下さい。」 寛人は毅然とそう言い放った後、美保の手を取ってその場を後にした。
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