うつすもの

2/4
前へ
/4ページ
次へ
*** 「よ!」 「…こんにちは」 木曜日。今日は職員会議があるとかで部活は休み。放課後は大体の人は遊ぶためにすぐに帰った。残っているのは図書室で真面目に勉強をしている数人くらいだ。 「今日も思い出探し?」 「うん」 部活をしている声も聞こえない、静かな学校。昨日と違って少し涼しい風が吹き、彼女の長い髪をサラサラと揺らす。 「ねぇ、写真見せてくれない?」 しばらく彼女が写真を撮っている姿を見ていたが、彼女がどんな写真を撮っているのかが気になって声をかけた。 「……どうぞ」 正直断られるかと思っていた。カメラと俺を交互に見て少し迷ったあと、差し出されたカメラを受け取る。 「…すげ、めちゃくちゃ綺麗」 「……ありがとうございます」 彼女が撮った写真はどれも綺麗だった。 学校の敷地内ばかりだったが、そのどれもがそうとは思えないほどに綺麗だった。 「あ、そういえば風景ばっかりだけど人は撮らないの?」 「あ、えっと…うん」 答え方に迷った様な感じだったが、言いたくないこともあるだろう、とまた手元のカメラに目線を戻した。 「本当に綺麗だよな。この学校じゃないみたい」 「……」 「別世界みたい」 首を傾げた彼女に少し笑って答える。 別世界みたいだった。現実味を感じない。なんだか不思議な感覚だった。 「思い出、もう少しで全部見つかる」 「そっか、頑張れ」 「…うん」 いつも表情を変えない彼女が少しだけ笑った気がした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加