うつすもの

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うつすもの

あの子はいつも、写真を撮っていた。 放課後、首からカメラを提げて歩いていたり構えているのを部活の途中、よく見かけていた。名前も、学年も分からない。そんなあの子がすこし気になっていた。 *** 「あ、」 今日も外は暑い。ジリジリと照りつける太陽が確実に体力を奪っていく。 部活の途中、走り込みから帰ってきた俺はグラウンドに戻る途中で彼女を見かけた。 最近よく見る彼女は今日もカメラを首から下げていた。 たまに立ち止まってカメラを構えて、また下げて。写真部なのか?写真部はあるけれど、基本的に学校外で個人で写真を撮ってたまにコンクールみたいなのに作品を提出しているらしいから、活動をしているのは見たことがない。 「(かける)、どうした?」 「あぁ、いや、何でもない」 「そ?早く行こうぜ」 「おう」 ぼーっと見ていると同じく走り込みから帰ってきたらしい友達に声をかけられたので、グラウンドに足を進めた。 彼女はいつも一人だった。 まぁ、景色を撮っているみたいだったから一人でいいのだろうけれど。真面目だな。 「コンビニ寄って帰らね?」 「いいね、アイス食いたい」 着替えて帰る準備をしてグラウンドを出る。 彼女を見かけた場所を通ったが、もう既にいなかった。まぁ、当たり前か。もう7時だし。流石に帰るだろう。 「今日も疲れた~」 「明日も暑いってよ」 「本当に勘弁して欲しい」 明日もいるだろうか。 *** 「翔!」 「あ、やべ!」 今日も今日とて暑い。暑い日が続くと疲れが抜けなくて体が重い。 涼しい風も一切吹かない中練習をしていたら、パスを取り損ねてボールがグラウンドから出てしまった。 「わりぃ、取ってくる!」 叫びながらボールが行った方向に軽く走りながら向かう。 だいぶ遠くまで転がったらしい。グラウンドからだいぶ離れた所でボールを見つけた。 「はぁ、疲れた」 ボールを拾って、急いで戻ろうと状態を起こす。 「あ、」 見つけた。今日もいた。 カメラを除く彼女がいた。 いつも、なんとなく目が離せなくなる。何故かはわからない。特別可愛い訳でもないし。 ただ、なんとなく。 「ねぇ、君写真部なの?」 「え、」 そう、声をかけたのもなんとなく。 特に理由はない。多分。 「…ううん、違う」 「違うの?」 「うん」 「ふーん」 じゃあ何故いつもいつも写真を撮っているのか。好きだからと言われればそれまでだが。 「いつも1人で写真撮ってるよね」 「…うん」 「好きなの?」 「…好きっていうか」 「ん?」 好きな訳では無いらしい。尚更なんでなのか。 「探してるの」 しばらくの沈黙の後、真っ直ぐ前を向いてそういった彼女。 「なにを?」 「思い出を」 「おもいで…」 全く理解ができない。 「おーい、翔!ボールあったか?」 「あ、忘れてた」 呼ばれて振り返ると遅い俺を探しに来たらしい友達がいてボールを探しに来ていたことを思い出した。 「見つかった!今行く!」 それだけ叫び、彼女に向き直る。 「俺、3年の中村翔(なかむらかける)。君は?」 「……1年、三上楓(みかみかえで)」 よろしく、と言うとおずおずと頭を下げられた。とりあえずよろしくしてくれるのだろう。 「じゃあ、俺行くわ。またね」 それだけ言って走って友達が待つ場所まで走る。 「悪い、遅くなった」 「んや、いいけど。なんかあった?」 「なんでも」 不思議そうに聞いてくる友達に彼女のことを教える気にはならなかった。ただなんとなく秘密にしておきたかったのだ。
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